2013年7月30日火曜日

欧州よ、米国に学べ:見込みがなければ破産させよ

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●GM破産の数年後にデトロイト市が破産した(写真の正面はデトロイトのGM本社ビル)〔AFPBB News〕


JB Press 2013.07.30(火)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38341

欧州よ、米国に学べ:見込みがなければ破産させよ
(2013年7月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

米GM、連邦破産法11条申請へ

かつての偉大な都市デトロイトの破産は、この「モータウン」の伝説的な自動車メーカーであるゼネラル・モーターズ(GM)が破産したほんの数年後にやって来た。どちらの破綻劇も、現実を早く直視しなかったことなど、様々な失敗が数十年間蓄積された結果だ。

 これらはまた、米国には欧州に対し大きな優位性があることの象徴でもある。成功している事業や活動に成長の余地を与えるために見込みのない者を退場させることについては、米国の方が前向きなのだ。命運の尽きた事業に引導を渡せることは、弱さではなく強さの表れである。

 もし欧州――特にユーロ圏――が危機を脱したいのであれば、この厳しいながらも愛のある米国のやり方を導入すべきだ。

 巨大な組織が崩れれば騒ぎになるのは当然だ。GMで再編された債務の額は1720億ドルに上った。その本社があるデトロイト市が直面する債務も、同市の緊急財務管理者ケビン・オーア氏によれば200億ドルに達する可能性があるという。

 この債務の大半は、自分たちの支払い請求は履行されると確信していた人々の損失だ。これは明らかに不公正であり、損失を被る債権者たちが――デトロイトの労働組合が連邦政府に支援を要請しているように――誰かにこれの穴埋めをさせようと手を尽くすのを責めることはできない。

 しかしながら、総じて言えば米国は、結果がどうなろうと構わないという覚悟ができている。欧州に比べればそうだ。

 以前は、常にそうだというわけではなかった。1975年には、財政危機に陥ったニューヨーク市に当時のジェラルド・フォード大統領が「くたばれ」と言い放ったと報じられた(実際にはそのような発言はなかった)が、最終的には支援の融資が実行された。
破産が終わりを意味しない米国、再起を果たすことに名誉

 しかしここ数年は銀行(リーマン・ブラザーズや多数の中小銀行)、経済全体に影響を及ぼし得るそのほかの企業(自動車産業)、さらには多数の自治体が最寄りの破産裁判所に駆け込む事態となっている。

 米国のこの厳しい対応には、それに見合う愛がある。この国では、リスクを取って失敗することは終わりを意味しない。再び立ち上がることが名誉とされる。破産すれば新たなチャンスが与えられるし、そうした場面で戦い続けることがこの国の文化では好まれる。米国経済のダイナミズムは、リスクを取ることに寛大な態度による部分が大きいのだ。

 これに対しヨーロッパ人は、支払い不能の状態に陥ることをもっと悪く、道徳的な汚点だと捉える。昔から、破産することは信頼できない人物だという烙印を押されることだった。ビジネスの世界から完全に身を引いてしまったり、昔であれば自分の人生を終わらせたりしてでも隠そうとするような恥ずかしいことだった。

 こうした見方は今でも、破産期間を12年間と定めたアイルランドのルールなど古めかしい法律に残っている(もっとも、アイルランドのこのルールはようやく改正されることになったが)。
失敗に対する欧州の文化的アレルギーがもたらす歪んだ政策

 逆説的だが、失敗に対する欧州の文化的アレルギーは、リスクがあまり取られない状況を招くだけでなく、大きなリスクを取って損失を出した人々を救済する政策にもつながっている。今日の危機で欧州は、デフォルト(債務不履行)などとても容認できないと考えているために、破産者の債務を穴埋めする政策を選択している。そしてその結果、自らが苦しむことになっている。

 ギリシャの事例ではこの構図がはっきりしていた。債権国側は救済など受け入れられないと主張したが、欧州の主権国家が債務の元利返済をしないかもしれないという見方の方がそれ以上に受け入れられないことだった。そして、最後の審判が下る日を先送りするために、ユーロ圏諸国が融資を行うことになり、国際通貨基金(IMF)もそこに無理やり参加させられたのである。

 銀行が破綻した時にも同じ現象が生じていた。アイルランド政府は2010年、同国の複数の銀行のバランスシートにあいた穴を国民の税金で埋めようと、あらゆる手を尽くした。これらの銀行を支払い不能と認定し、小口の預金者を保護したうえで債権者に後始末をさせるというやり方を採らなかったのだ。

 アイルランド政府はその後、国民の税金ではこの穴は埋めきれないことを理解し、それを見たほかのユーロ圏諸国は、アイルランドに力づくで資金を貸し付けて銀行救済を継続させた。破産を毛嫌いするこの姿勢は、スペインやそのほかの国々の銀行政策をも損なうこととなった。

 通常のパターンではあるが、現実に直面したヨーロッパ人は考え方を変えざるを得なくなっている。例えば、ギリシャのソブリン債務は最終的には再編された(確かに、債務再編の利益の大部分が消えてしまう前にこれを実行するというわけにはいかなかったし、ギリシャ国債の保有者が自主的に行ったという偽りの看板を掲げることにもなったが)。

 またキプロスの危機でも、金額こそ小さかったが、ロシア人預金者を救済するという提案は欧州北部の国々には容認できないものだった。

 こうした教訓でさえ、理解されるにはそれなりの時間がかかる。米国では2010年に、大銀行の規模を段階的に縮小させて損失をその債権者たちに負わせる権限を政府が手にした。一方、欧州連合(EU)加盟国政府の大半は、この重要な法律を成立させる手続きにも取りかかっていない。

 債権者に損失を求める「ベイルイン」の必要性については原則的には合意されているが、EU本部から成立を義務づけられるのは何年も先のことになるだろう。

 もし、今回の危機が始まった時からユーロ圏が債務再編を実際的な政策として取り入れていたら、果たしてどれほどの資金が節約できただろうか。もちろん、その答えは誰にも分からない。しかし、数年間にわたって経済成長が失われた――目覚ましいとは言えないがまずまずの速度で危機を脱している米国と比べるならそうなる――ことの一因は、欧州がいまだに抱える過剰な債務に求められる。

 米国では債務残高の急減を背景に、人々が再びお金を使い始めている。片や欧州では、自己資本があまりにも少ない(ほかの資金調達源が干上がっている時に債務の株式化を拒んだ結果である)ためにぐらついている銀行が経済の足かせになっている。
リーマン破産から欧米が引き出した異なる教訓

 こうした指摘に欧州諸国は、米国のように破綻を容認すればどんなダメージがもたらされるかはその最悪の破産劇――リーマン・ブラザーズの破産――で明らかになったと反論できるだろう。もっともな指摘である。しかし、あの一件から米国人と欧州人が異なる教訓を引き出したことも、また事実だ。

 米国は「大きすぎて潰せない」という考えに終止符を打つことに取り組んできた(まだ道半ばではあるが)。片や欧州は、キプロス危機まで正反対のことをやってきた。最も小さな規模な銀行の破綻に対しても、リーマン・ブラザーズのそれと同じくらい破滅的であるかのような対応を続けていたのだ。

 F・スコット・フィッツジェラルドはこんな一文を残している。「私は以前、米国の生活には第2幕なんてものはないと思っていたが、ニューヨークの好景気の時代には間違いなく第2幕になるものがあった」。フィッツジェラルドが念頭に置いているのは、どんちゃん騒ぎの1920年代を静かにさせた1929年の株価大暴落だ。

 米国が何度も見せてくれた教訓を欧州は今こそ学び取り、まず第2幕が始まるようにしなくてはならない。そうすれば、やがて第3幕が開く可能性も出てくるのだ。GMの時はそうだった。デトロイトでもきっとそうなっていくだろう。
By Martin Sandbu
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【気になる-Ⅴ】


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2013年7月26日金曜日

日本に“激辛”料理が生まれなかった理由: 唐辛子から見る日本ピリカラ論

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●長野県北部の中野市などで栽培される唐辛子「ぼたんこしょう」(写真提供:松島憲一准教授、以下同)


JB Press 2013.07.26(Fri) 漆原 次郎
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38301

日本に“激辛”料理が生まれなかった理由
唐辛子から見る日本ピリカラ論(前篇)

 暑い盛り。辛いものを食べて暑さを吹き飛ばしたいと願う人もいるだろう。それをかなえてくれる食材が、唐辛子だ。

 赤く熟した実は見るからに辛い。実際に口にしてみると、やっぱり辛い。そして、食べているときは苦痛さえ覚える。ところが、しばらく経つとまたあの辛さが恋しくなる。唐辛子はかくも魅力的な食材だ。

 いまや世界中で育てられ食べられている唐辛子。真っ赤に染まったキムチ、チゲを食べる韓国や、口がヒリヒリするほど辛みの利いた麻婆豆腐を食べる中国南部と比べ、日本で唐辛子はさほど好まれないと言われる。だが、日本人には日本人としての唐辛子との長いつきあいがあったのもまた事実だ。そこからは、辛さの日本的な受け入れ方も見えてくる。

 今回は唐辛子をテーマに、日本における歴史と現代科学を追ってみることにしたい。前篇では、“辛さの日本的な受け入れ方”を探るべく、日本人と唐辛子とつきあいの歴史を追っていく。後篇では、唐辛子をめぐる科学研究の現状を、信州大学大学院農学研究科でトウガラシ研究を行っている松島憲一准教授に聞くことにしよう。
伝来から150年で豊富な種類に

 日本にどのように唐辛子が入ってきたのか。その決め手となる記録は見つかっていない。ただし16世紀の室町時代から17世紀の江戸時代初期の間に日本に入ってきたとされ、主に3つの説がある。

 1つめは、1542(天文11)年、ポルトガル人によって南瓜が豊後国(いまの大分県)に持ち込まれた際、一緒に唐辛子も持ち込まれたという説。2つめは、豊臣秀吉(1536~1598)が1592(文禄元)年と1597(慶長2)年に朝鮮出兵した際、持ち帰ったという説。これには秀吉側が朝鮮半島に唐辛子をもたらしたという説もある。そして、3つめは、1605(慶長10)年、南蛮人により煙草が入ってきたのと同じくして入ってきたという説だ。

 明確な“第一歩”が分からないのは残念ではある。しかし、むしろ、その後の日本での唐辛子の普及が早かった方に注目したい。

 主に東海地方の農業について書かれた『百姓伝記』という書物が天和年間(1681~1684)に世に出た。そこに唐辛子の記述がこうある。

 <赤くほそく身なるうちに大小あり、またみぢかく赤きに、なりの色々かわりたるものあり、赤きうちにとつとおおきなるものあり、また黄色なるうちに大小あり、下へさがりてなるものあり、そらへむきてなるものあり>

また、すこし遅れて1697(元禄10)年に出された『農業全書』という農業書にも、唐辛子について「大あり、小あり、長き、短き、丸き、角なるあり、そのしなさまざまおほし」と記されている。

 農業書だけでない。1712(正徳2)年に成立した図入りの百科事典『和漢三才図会』には、唐辛子が「数品あり、筆頭の如く、椎子の如く、梅桃のごとく、さるがきの如く、或はすずなり、或は上に向かふ、生は青し、熟は赤し、或は黄赤色の者もあり」と記されているのだ。

 これらはいずれも、唐辛子の大小、形や育ち方などの多様性を示している点で共通している。最も早く唐辛子が伝来した説をとっても、伝来からわずか150年ほどの間に、日本の唐辛子は様々な種類に広がっていたのである。

 ちなみに、『農業全書』と同じ年に出た、食用や医用の植物解説書『本朝食鑑』では、「多食すると、血を破り、眼を損ない、瘡毒を動かす」と、“唐辛子の食べ過ぎに注意”を示している。これも多食をしていた人がいることを示す証しになりそうだ。
大都市近郊で唐辛子栽培、七味も誕生

 江戸時代、いまの東京や関西の人びとが「こんなところで」と驚くような場所で、唐辛子は育てられていた。

 江戸では、新宿の先の甲州街道沿いが唐辛子の産地だった。信州高遠藩(いまの伊那市高遠)の初代藩主だった内藤清枚(1645~1714)が、1699(元禄12)年に江戸郊外に内藤新宿という甲州街道の宿場を開いた。内藤新宿から甲州街道にかけての道沿いには、唐辛子の畑があり、当時はこの一帯が唐辛子の産地だったと言われている。

 一方、京都では伏見が唐辛子の産地となった。1684(天和4)年に刊行された山城国(いまの京都府南東部)の地誌『雍州府志』には、唐辛子について「山城の国、伏見辺りで作られたものが有名」と記されている。いまも伏見は、「伏見甘」と呼ばれる、長くて辛くない唐辛子の産地である。

 もちろん新宿も伏見も、いまに比べればのどかな田舎だったに違いない。だが、江戸や京都という大消費地の近くで唐辛子が栽培されていたのである。唐辛子は大消費地で消費される人気の野菜だった。そう考えるのが自然だろう。

 実際、新宿や伏見で唐辛子栽培が始まるより前から、江戸や京都などで唐辛子を使った薬味が誕生している。いまも人びとに愛用されている「七味唐辛子」である。

 1625(寛永2)年、江戸・両国橋付近の薬研堀(やげんぼり)で、からしや中島徳右衛門(生没年未詳)という人物が、唐辛子、焼唐辛子、芥子の実、麻の実、粉山椒、黒胡麻、陳皮の7種類の薬味を混ぜ合わせた「七味(なないろ)」を売り出した。その後、江戸の街に、調合して七味唐辛子を売り歩く行商の姿が見られた。当時、この七味唐辛子は調味料というよりも、薬の一種として考えられていたようだ。なお、中島が開いた店は1943(昭和18)年に、浅草に居を移し、いまなお「やげん堀」として七味唐辛子を売り続けている。

 京都では、清水寺に向かう産寧坂で、「河内屋」が明暦年間(1655~1658)から、白湯に唐辛子の粉を入れた「からし湯」を参拝客や修行者などに振る舞うなどしていたという。薬研堀のからしやの影響もあったのだろうか、その後、河内屋も七味唐辛子を始め、1816(文化13)年には、店名も「七味家」に変えている。薬研堀のからしやにない特徴は、七味の1つに山椒を使っていることだ。

 さらに、信州・善光寺の門前にも、七味唐辛子の老舗がある。1736(元文元)年、鬼無里(きなさ)村(いまの長野市鬼無里)出身の初代勘右衛門(生没年未詳)が、善光寺の境内で七味唐辛子を売り出した。これが、いまも善光寺交差点角に店を構える「八幡屋磯五郎」の誕生である。八幡屋の七味唐辛子の特徴は、生姜が薬味に入っていること。江戸時代中期に消失した善光寺の再建では、大工たちの体を温めるため、七味唐辛子入りの汁が供されたと言われる。

 江戸、京都、信州。それぞれに少しずつ調合は違いながらも、七味唐辛子は日本の薬味として確立していったのである。
“慎ましやかな辛さ”を唐辛子に求める

 唐辛子はほかにも、漬け物、魚の保存食、炒め物、煮物などのお供として各地で使われてきた。日本での唐辛子の使われ方は、魚や野菜などの主菜の持っている本来の味を消し潰さないほどの、脇役的なものだったと言えるだろう。

 明治時代に入るまで、日本には肉を食べる習慣がほぼなかった。そのため、肉の強い味とのバランスを取るほど大量に薬味や香辛料を使う習慣もなかった。中国や韓国の人びとが唐辛子に強烈な辛さを求めるのとは一線を画す、日本の“慎ましやかな辛さ”を求める食文化の成立を、このあたりに見出すことができそうだ。

 戦後になると、食の多様化が一気に進んだ。そして唐辛子も食の広がりの中、様々な形で受け入れられていった。四川料理の麻婆豆腐が料理人の陳建民(1919~1990)の手で日本に入ったのは1952(昭和27)年。戦後にはまた、即席カレーも普及した。

 さらに1988年のソウル五輪前後から、キムチなどの韓国料理が日本でも本格的に受け入れられる。1990年代、唐辛子をふんだんに使ったタイ料理は「エスニック料理」と称されブームになった。スナック菓子では「カラムーチョ」「暴君ハバネロ」「大魔王ジョロキア」といった、辛さを売りにした商品が棚に並んだ。

 伝統的な接し方と現代的な接し方という2つの側面を持つようになった唐辛子に対して、それぞれに科学的な視点も向けられている。現代は唐辛子という辛い食材に、科学の眼が当てられた時代でもある。後篇では、いま行われている唐辛子の科学的研究を見ていくことにしたい。

(後篇へつづく)



JB Press 2013.08.02(Fri) 漆原 次郎
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38360

「激辛」世界一を目指さないのにはワケがある
唐辛子から見る日本ピリカラ論(後篇)

 辛い食材の代表格「唐辛子(トウガラシ)」をテーマに、前後篇で日本における歴史と現代における科学研究を追っている。

 前篇では、日本人と唐辛子のつきあい方を、伝来から現在に至るまで見てきた。
 遅くとも16世紀以降、唐辛子は日本人に食べられ続けてきた。
 日本の“慎ましやかな辛さ”への要求をそこに感じ取ることができる。

 そしていま日本人は、食の多様化とともに、様々な形で唐辛子を受け入れることになった。
 伝統性と多様性が相まみえる中で、唐辛子に科学的な視点も向けられ、
 新たな唐辛子の生かし方の研究も進んでいる。

 そこで後篇では、唐辛子を研究のメインテーマの1つにしている信州大学大学院農学研究科の松島憲一准教授に唐辛子研究の現状を尋ねた。

 科学、文化、産学連携と、様々な視点から唐辛子研究を進める松島氏に、唐辛子の辛さの秘密、日本における唐辛子栽培の発展性、そして日本人と唐辛子と未来を語ってもらう。

■ネズミでなく、鳥に食べられたい

 なぜ唐辛子に辛さがあるのか。
 この根源的な問いに対して、様々な視点から説明をつけることができる。

 まず、化学的な視点だ。
 19世紀、すでに西欧の研究者が唐辛子の辛さの正体を突きとめていた。
 その物質はいま「カプサイシン」と呼ばれている。

 その後、唐辛子には、カプサイシンとつくりの似た「ディヒドロカプサイシン」や「ノルディヒドロカプサイシン」といった物質も含まれていることが分かった。
 これらを含めた類似物質は「カプサイシノイド」という総称で呼ばれている。
 「唐辛子を食べたときの辛みに大きく影響するのはこの3つです」
と、松島氏は説く。

 生理学的な視点からも辛さの感じ方が解明されている。
 われわれの体の表面にあるバニロイド受容体という場所に、カプサイシンなどの辛み成分がはまることで、脳に辛さが伝わる。

 その辛さは、実は痛覚と温感によるもの。
 つまり、辛みは、甘みや苦みなどの味覚とは一線を画すのだ。
 「英語で唐辛子を“Hot”というのも的を射ています」

 進化学的な視点、つまり唐辛子がなぜ辛くなったのかには諸説がある。
 松島氏は、自然誌研究者ジョシュア・テュウスクベリーと農業生態学者ゲーリー・ナブハンが共同で2001年に「ネイチャー」に報告した説を紹介する。

 「唐辛子の種子は、ネズミに食べられると、糞からの発芽率が悪くなります。
 かつネズミの行動範囲も広くないので、種子を広めるという点では“食べられ損”となります。
 一方、鳥に食べられると、糞からの発芽率は高い。
 それに種子を飛んで遠くまで運んでくれます。
 カプサイシンの辛さは、ネズミなどの哺乳類には感じられますが、鳥にはあまり感じられません。
 鳥に食べてもらう一方、哺乳類には食べられないように、辛さを進化させていったというのがこの説です」

 他にも説はある。
 唐辛子を腐らせるフザリウムという菌から身を守るため辛さを発揮しているという説だ。
 菌の生じにくい乾燥地帯の唐辛子は辛くなく、菌が生じやすい高温多湿地帯の唐辛子は辛いという傾向があるというのだ。

 松島氏は
 「両方の説とも、自然界で唐辛子の果実中のカプサイシンがうまく働いている興味深い例と言えます」
と話す。

■ほんのりとした辛さの謎を解明

 世界では、より辛い唐辛子を目指した開発も行われている。
 スナック菓子の名前にも使われたことのある「ブート・ジョロキア」が、それまで世界一だった「ハバネロ・レッドサヴィナ」を辛さで上回り、2007年に“世界王者”の座に就いていた。

 だが、2011年に「トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー」という別の品種が、辛さのギネス世界記録に認定された。
 乾物1グラムあたりの総カプサイシノイド量は9万マイクログラムほどという計算になる。これはジョロキアの1.5倍に及ぶ辛さだ。

 松島氏によると、ジョロキアやハバネロなどは在来品種かそれに少し手を加えた程度の品種だったのに対して、ブッチ・テイラーは、“世界王者狙い”で品種改良され、栽培方法まで考えられてつくりだされたもの。

 さらに、「トリニダード・モルガ・スコーピオン」という別品種も、唐辛子の世界的権威である米国の研究者が“世界一辛い”と認めている。
 ジョロキア登場のあとも、辛さをめぐる熾烈な争いは続いているのだ。

 松島氏も、以下に見る通り、唐辛子の品種改良をしている。
 世界王者を狙う気はないのだろうか。

 「いまのところ参戦する気はありません。
 開発すれば話題にはなるでしょう。
 でも、それは日本で受け入れられるものではないからです。
 マイルドな辛さの品種を作る方が、日本の食文化には合っています」

 実際、松島氏は、ほんのりと辛さを感じる唐辛子の仕組みを解明してきた。
 これまで、“辛くない唐辛子”として知られてきたピーマンなどでは、辛みを完全に制御する遺伝子が見つかっている。
 一方で松島氏たちは、辛さを“完全に”抑えるのでなく、“極低量”に抑える別の遺伝子を発見した。
 この遺伝子を利用すれば、居酒屋などで運悪く出くわすシシトウの突発的な辛さなどを抑えることもできるという。

■目指すは地域が潤う唐辛子

 日本に合った唐辛子の開発とはどのようなものか。
 松島氏は、長野県などで採れる地元の唐辛子在来品種を保全し利用する一方で、新たな唐辛子品種を導入して地域産業に活用する取り組みも行っている。

 対象の1つが、「ぼたんこしょう」という長野県北部の在来品種の唐辛子だ。
 一見、ピーマンのような外見だが、果実のお尻のほうから見るとボタンの花のような高貴さも漂わす(上図)。

 地元には昔から、ぼたんこしょうを、在来の丸茄子、大根の味噌漬け、みょうがとともにみじん切りにして混ぜた「やたら」という生ふりかけのような郷土料理がある。
 「これはうまいですよ」と松島氏は太鼓判を押す。

 ぼたんこしょうを含む、県内の唐辛子在来品種のほとんどは、かつて自家用栽培をするくらいにとどまっていた。
 しかし、その土地ならではの唐辛子には高い商品価値がある。
 そこで、松島氏は地元の生産者と手を組んで、こうした唐辛子を産業化しようとしている。

 「唐辛子栽培は、中山間地向けです」とも言う。
 「軽量野菜なのでお年寄りでも扱いやすい。
 それに辛いので獣も寄りつかず、獣害にも遭いにくいのです。
 ぼたんこしょうのように、限られた地域でしか作られていない唐辛子は地域資源にもなります」

 松島氏は、ぼたんこしょうの甘みや辛みなどの味の成分や、抗酸化作用のあるポリフェノールなどの機能性成分の量を測るなどして、商品価値の科学的裏付けを取っている。
 産業化すれば、食文化の継承、農業の再生、遺伝資源の保全といった様々な効果が生まれそうだ。

 長野県には、地元で採れた唐辛子を食品に積極的に利用しようとする企業もある。
 松島氏は、そうした企業と製品開発を進めてもいる。
 その1つに、前篇でも紹介した、善光寺門前にある七味唐辛子の老舗「八幡屋礒五郎」との産学連携がある。

 「八幡屋礒五郎さんは多くの量を扱っているため県外産の唐辛子も使っていますが、名実ともに信州の唐辛子にしていきたいという社長の強い思いがあります。
 そのお手伝いをしています」

 信州の中山間地での原料用唐辛子栽培では、実が赤く熟す前に霜が下りることや、寒い地域では辛みが減ってしまうことが克服すべき課題となる。
 そこで八幡屋礒五郎と共同で、霜が降りないうちに赤く熟す早生で、かつ冷涼な気候でも辛さを保つような新品種を交配育種で開発している。

 他に、長野県飯島町に工場を持つ食酢メーカー「内堀醸造」とも協力し、酢との加工に適した唐辛子の品種導入を検討した。
 自治体とも連携し、飯島町の畑で採れる「チェリーボム」という品種を使った「すっぱ辛の素」という商品を誕生させた。

 「地域も儲かる。食品会社も儲かる。
 さらに唐辛子を求めて外から人が来る。
 在来品種を使用した場合は遺伝資源も保たれる。
 そのようなシステムをこれからもつくっていきたいと思っています」

■日本で食事の激辛化はどこまで進むのか?

 日本人と唐辛子のつきあいを長い歴史の中で捉えれば、ここ何十年は、伝来以来はじめての激動期と言えるのかもしれない。
 長らく日本人は唐辛子に“慎ましやかな辛さ”を求めてきたが、いまやラーメン、カレー、鍋、スナック菓子と、多方面の食で激辛化が進んだからだ。

 ただし、その激動も、なにもないところから起きたわけではない。

 「食文化として、七味唐辛子や地元の唐辛子などが途切れることなくずっと続いてきました。
 もともと日本人が江戸時代から持っていた、度を過ぎない“辛いもの好き”の下地があってこそなのでしょう」

 これから、唐辛子と日本人の関わり合いはどうなっていくのだろう。
 類いまれなるこの辛い食材を、松島氏は冷静に見つめる。

 「今後、唐辛子のような辛いものを食べる世代は広がり、若い人からお年寄りまで辛いものをさらに食べることになるでしょう。
 だからといって、日本のきつねうどんが全て真っ赤になるようなことは起きないと思います。日本人が続けてきた、日本食に合った唐辛子の使い方は、それはそれとして残っていくのではないでしょうか」

 変わらない部分と変わっていく部分。
 その両方を抱えながら、日本人と唐辛子の関係は続いていくことになる。





【気になる-Ⅴ】


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2013年7月22日月曜日

日本の中堅企業、その競争力と成長の条件:英報告書~日本中堅企業の特色

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JB Press 2013.07.22(月)  Economist Intelligence Unit
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38254

日本の中堅企業 その競争力と成長の条件
英EIU報告書(1)~日本における中堅企業の特色

■はじめに

 零細・小規模企業には、起業家精神を体現する存在としてメディアの関心が集まることが多く、様々な政策的支援も行われている。
 こうした傾向は、日本でも他の先進国と同様に見られる。
 一方、大企業は自らの成功と影響力を活かしてメディア露出の機会を多く作り出すとともに、主要産業団体や業界内外で大きな発言力を発揮している。

 その狭間にある中堅企業の存在は、ともすれば見過ごされてしまうのが現状だ。
 しかし日本の中堅企業は、労働人口の約4分の1を雇用し、総売上高の約3分の1を占めるなど、
きわめて重要な経済的役割を果たしている。

 本報告書では、中堅企業の定義を世界全体で10億円から1000億円の年間売上高を持つ企業と定めた。
 これは、企業の経済活動や産業構造等に関する最新の公的データや、約130万社を対象とした民間データベースなど、様々な情報の分析を行った結果定められたものだ。
 またこの定義は、ヨーロッパ諸国や米国で主に用いられているものと大枠で一致している(相当する収益額を日本円に換算した場合)*1。

*1=この定義を用いた研究の例としては下記の2つが挙げられる:US middle-market firms and the global marketplace, Economist Intelligence Unit, 2012, The Mighty Middle: Why Europe’s Future Rests on its Middle-market Companies, and Leading from the Middle, The Untold Story of British Business, GE/Essec Business School, 2012.

 年商10億~1000億円という範囲には、日本経済の将来を左右する様々な業種や事業形態の企業が存在している。
 規模が比較的小さな中堅企業の中には、様々な産業で最先端の取り組みを行う革新的な急成長企業が含まれている(個人事業主や家族経営のサービス企業など、日本に数多く見られる零細企業は対象外)。
 若い起業家が経営するリブセンスやオイシックスなどの新興企業はその一例だ。

 また比較的規模の大きな中堅企業の中には、ハニーズやナカシマプロペラなど、各業界で主導的なポジションを確立している企業も少なくない。
 本報告書では、こうした企業が日本経済の中で果たす役割、直面する課題、将来的に大企業となる可能性といった点について検証を行う。

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■国際的にも高いレベルの生産性

 日本の中堅企業が全企業数に占める割合は、2.1%と比較的少数だ。
 しかし総従業員数の4分の1以上、そして総売上高の約3分の1を占めるなど、日本経済の中できわめて重要な役割を果たしている(表1.1~1.3参照)。


 主要先進国と比較すると、中堅企業の従業員が労働人口に占める割合は若干低い(大企業が持つ圧倒的な雇用能力が影響を及ぼしていることは想像に難くない)。
 だが興味深いのは、生産性つまり従業員1人あたりの売上高が、他の先進国より優れている点だ(表1.4参照)。


■大企業と比べて柔軟な対応能力

 今回エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が実施した調査によると、日本の中堅企業の多くは安定した経営基盤と市場ポジションを確立しているようだ。
 調査対象企業の中で10年以内に創業された企業はわずか7%にとどまり、創業11~50年の企業が58%、創業50年以上の企業は35%を占めている。

 また中堅企業の多くは、日本が近年直面した経済的問題に対しても柔軟な対応力を示している。
 2008年から2011年にかけて、日本経済はリーマンショックや東日本大震災など様々な非常事態に直面した。
 しかし、同期間に日本の大企業が経験した平均収益の落ち込みは10%に上っているのに対し、中堅企業では7.5%にとどまっている(表1.5参照)。


■雇用レベルの維持は大きな課題

 一方、日本の中堅企業は雇用面で課題に直面している。
 2008年から2011年にかけての平均従業員数は、大企業で5%減にとどまっているのに対し、中堅企業では14.5%減と大幅に落ち込んだ。
 この数字からも、利益維持のためにコスト削減面で厳しい決断を迫られた中堅企業の姿が浮き彫りになっている。

 同時期に最も良好な数字(9.3%増)を示したのは、個人事業主を除く小企業だ。
 これは、厳しい経済情勢の中で、多くの労働者が新たな雇用先を求めた結果だと考えられる。
 また多くの小企業は、事業規模のより大きな中堅企業が対象とならない政府支援策(特に景気低迷が深刻化した近年に多く見られた)の恩恵を受けた可能性が高い。

■変化を遂げる中堅企業の産業構造

 国内中堅企業の産業構造を見ると、製造業が占める割合は4分の1超に上っている。

 それに次いで多いのは、金融・専門的サービス*2・建設・不動産・IT・テクノロジー・電気通信といった業種だ(表1.6参照)。


*2=専門的サービス=専門知識を必要とするサービスの総称(例:弁護士事務所・会計事務所・コンサルティング企業・人材会社・PR会社など)

しかし中堅企業の産業構造は変化を遂げつつある。
 創業11年以上の企業で見ると、製造業は最も大きな割合を占めているものの、創業10年以下の新興企業を見ると上位3業種に入っていない(表1.7参照)。


 また製造業は、今回の調査で最も悲観的な見通しを示した業種の1つだった(第2章を参照)。

■中堅企業:3つのタイプ

 日本の中堅企業は、事業規模に応じて3つのカテゴリーに分けることができる。
 日本経済全体の傾向と同様に、小規模中堅企業(年間売上高が100億円未満)は最も多く、全体の88%に上っている。
 本報告書では、中堅企業を小規模・中規模・大規模という3つのカテゴリーに分類した(各グループの定義と特徴については表1.8を参照)。


 各カテゴリーの比較により明らかとなった興味深い点の1つは、規模の経済性がもたらす収益率の差だ。

 大規模中堅企業(平均年間売上高700億円)では、平均収益率がほぼ5%と、他のグループに比べて高い。

 第2章で後述するように、近年の業績と今後の見通しに関する中堅企業のセンチメントは、事業規模によって大きく異なっている。
 例えば大規模中堅企業は、近年の景気低迷がもたらすマイナスの影響に対して、より柔軟な対応力を示した。
 2012年には、このグループに属する企業の50%が収益の拡大に成功している。
 一方、小規模中堅企業ではその割合が38%にとどまった。

 また3つのグループには、事業戦略や適性という意味でもある程度異なった傾向がある。
 例えば小規模中堅企業には、ニッチ市場をターゲットとするケースがより多く見られた(このグループのほぼ半数)。
 しかし小規模企業は、自社のイノベーション能力に対する評価が比較的低いようだ。
 今回の調査では、「自社は革新的な新製品やサービスを開発している」という記述に同意しない小規模企業の回答者が、同意した回答者を大きく上回った。

 一方、大規模中堅企業(年間売上高500億~1000億円)では、自社のイノベーション能力に対する肯定的な回答が最も多かった。
 また市場機会を捉える能力や、変化への対応能力に関しても、同様の傾向が見られる(表1.9参照)。


 しかし小規模中堅企業は、イノベーションの新たなトレンドを最大限活用できる柔軟性を持ち合わせていることが多い。
 東京大学大学院で教授をつとめ、21世紀政策研究所(経団連のシンクタンク)の研究主幹として中堅企業のイノベーションに関する報告書を取りまとめた元橋一之氏は、外部企業や学術機関との連携をつうじたオープンイノベーションの推進という面で小規模中堅企業が果たす役割の重要性を指摘している。

 「高度な技術力を持つ中堅企業が、ネットワーク型イノベーションの推進に果たす役割は大きい」
と元橋氏は言う。
 また同氏は
 「大企業と比べてリソースが限られている中堅企業は、イノベーションに対する目的意識が明確なため、より効率的にアウトプットを行う傾向が見られる」
と指摘している*3。

*3=この点に関しては、下記報告書を参照:元橋一之 他著「外部連携の強化に向けて – 中堅企業に見る日本経済の新たな可能性」 21世紀政策研究所、2012年6月(同報告書では製造業を主な研究対象に、年間売上高1億〜10億円の企業を中堅企業と定義している)

 日本の中堅企業は、規模や業種などによって様々な特色が見られる。EIUは、多様な見方や傾向を理解するため、日本全国の中堅企業に所属する経営幹部約1000名を対象としたアンケート調査を実施した。
 同調査では、業績や景況感、成長に際して直面する課題への対応能力、海外展開の計画といったテーマに沿って質問が行われた。
 こうしたテーマに関する調査の分析結果は、第2~4章でそれぞれ明らかにされる。

 また第5章では、成功を収める中堅企業の戦略・経営について検証を行う。
 今回の調査によって浮き彫りになったのは、柔軟な対応力を備え、安定した事業基盤を持ちながらも、国内市場の先行きに不安を感じ、海外展開を視野に入れているという中堅企業の実像だ。

(第2章は明日へ続く)



JB Press 2013.07.23(火)  Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38263

中堅企業の目に映る日本経済の今
英EIU報告書(2)~日本の中堅企業 その競争力と成長の条件

■国内経済の見通し

 主要海外市場での需要低迷による輸出企業の収益減少や、競合国の台頭による市場競争力の低下、対中外交関係の悪化など、日本経済は世界金融危機の発生後、国外で様々な課題に直面してきた。
 また国内でも、デフレや政治的混乱や未曾有の大震災をはじめとするマイナス要因に直面した。

 日本のGDPは、世界的な景気低迷のあおりを受けた2009年の翌年に4.7%の回復を見せたものの、2011年には実質GDPが0.5%のマイナス成長を記録。
 復興需要の後押しを受けたにもかかわらず、2012年の成長率も1.8%にとどまり、年末にかけて過去5年に3度目となる景気後退の懸念が広まった(表2.1参照)。



 しかし、新たな自民党政権が掲げる経済政策などを背景に、2013年に入ると国内では楽観的ムードが強まった。

 緊急経済対策や日本銀行によるデフレ対策のさらなる強化、様々な構造改革など、政府が打ち出した一連の経済政策(いわゆる“アベノミクス”)は、過去数十年に例を見ないほど市場の期待感を高めている。

 これまで輸出企業の頭を悩ましてきた円高は、2012年11月から2013年5月の間に見られた対ドル為替レートの27%下落により大幅に改善され、日経平均株価も今年最初の4カ月で37%上昇した。
 これにより、日本経済の先行きには明るさが戻ったように見える。



 だが、EIUによる予測では実質GDP成長率がわずか1.2%にとどまるなど、マクロ経済分野での2013年の見通しはそれほど明るいものではない。

 中国との緊張関係や、政府の新たな景気刺激策が膨大な財政赤字に与える影響など、依然として大きな懸念材料も残っている。またアベノミクスがもたらした市場の楽観ムードは、今回の調査結果に反映されていない。

 しかしEIUが作成した「国内中堅企業の景況感指数」によると、国内中堅企業は今後の業績や経済動向に関し、過去数年よりも楽観的な見通しを持っている。

■主要な調査結果

【良好な収益見通しは中堅企業の柔軟な対応能力を反映】

 今回の調査結果によると、日本の中堅企業は企業全体と比べて優れた業績を上げているようだ。中堅企業による2011年の平均収益は、損益分岐点である指数100を下回るレベルまで低下した。しかし、2012年には100をわずかに上回るところまで回復し、2013年の収益予測指数は103.3まで上昇している。この背景の1つとして考えられるのは、新政権の積極的な経済政策に対する好感ムードだ。

 また中堅企業は、日本企業の中でも非常に柔軟な対応力を持っているようだ。今回調査の対象となった企業幹部の多くは、過去3年間の自社製品・サービスに対する需要(そして業界全体の景況)が経済全体の傾向と比較して良好だったと考えている(表2.3参照)。



 これは、全ての指標が100を下回るマイナスとなっていることを考えても興味深い結果だ。第1章で明らかにしたように、2008~10年に中堅企業が上げた収益の平均値は大企業を上回るものだった(名目平均値は大企業・中堅企業共にマイナス値)。上述の結果は、こうしたトレンドに沿ったものだろう。

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■国内中堅企業の景況感指数:調査方法について■

 国内中堅企業の景況感指数は、今回EIUが実施したアンケート調査の結果から作成したものだ。
 同調査では回答者に対して、収益や雇用水準など数値化可能な業績評価指標が過去3年に増加・減少したのか、あるいは2013年に増加・減少するかといった質問への回答を求めた。
 さらに、総需要や市況、業界あるいは経済全体の景気動向などの質的要因が過去3年に改善したか悪化したか、2013年にどのように変化するかといった質問も行った。

 調査対象者は、こうした全ての設問に1から5の5段階評価で回答している(1=大きく改善(増加)、2=ゆるやかに改善(増加)、3=変わらない、4=ゆるやかに悪化(減少)、5=大きく悪化(減少))。

 この調査結果から1年毎に単一の指数を導き出すために、1から5までの数字を選択した回答者の割合にそれぞれ1.5・1.25・1・0.75・0.5を掛け、その結果にさらに100を掛けた数値を求めた。
 例えば100以上の指数[最大150]は、その年の(例えば成長に関する)センチメントがプラスであったことを示している。
 また100以下の指数[最低50]は、ある項目に対するその年のセンチメントがマイナスであったことを示している(例えば景気後退など)。

 標準的な調査方法によって導き出されたこれらの指数は、サブグループごとに比較可能だ。
 ただし、2010~12年までの指数が実際のパフォーマンスから導き出された値であるのに対し、2013年の指数は同年1月時点での予測であることに留意されたい。
 今回の調査結果では、2013年に関する指数の多くが、予想に反して大幅なプラスになっている。
 この理由の1つとして考えられるのは、調査対象となった経営幹部の多くが、今後の見通しに対して希望的観測を行っていることだ。
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【輸出収益は増加の見込み】

 今回の調査結果によると、輸出を行う中堅企業(全体の42%)は2013年の業績見通しに楽観的で、海外収益指数(104.2)が国内収益指数(102.6)を上回った(表2.4参照)。
 この結果の理由の1つとして考えられるのは、2011~12年のほとんどの期間で、競合国の通貨(特に韓国ウォン)と比べた日本円の割高感が強かったことだ(表2.5参照)。



 しかし、日本銀行にさらなる金融緩和を求める政府の圧力が強まったことなどを背景に、円が調査実施直前の数週間で大きく下落した。
 楽観ムードの背景には、この円安傾向によって国内企業の輸出競争力が向上したことがあると考えられる。

【雇用水準は横ばい状態】

 しかし中堅企業の収益増加が、雇用拡大につながる見込みは低いようだ。
 2012年を通じて雇用水準は大きな変化を見せておらず、2013年も横ばい状態が続く可能性は高い(指数100.8)。
 これは、2013年は有能な人材の新規採用を重点的に行うとした回答者が全体の47%に上ったという調査結果と相反するものだ(重点的に行わないとした回答者は9%)。

 有能な人材の新規採用が重点事項であるかないかにかかわらず、中堅企業の雇用水準が大幅に改善する可能性は低い。
 仮に期待に見合った収益拡大が実現しても、この傾向は変わらないようだ(表2.6 )。



【資金調達環境は改善の兆し】

 外的要因が及ぼす影響に関して、中堅企業による2013年の見通しは控え目だ。
 2011~12年のセンチメントと比較すると改善が見られる。
 しかし競争・規制環境が2013年をつうじて変化しない、あるいは悪化すると答えた調査対象者は、依然として半数を超えている(表2.7参照)。

 一方で、資金調達環境に対するセンチメントには明らかな改善の兆しが見られた。
 2012年・2013年の両方で、楽観的な回答者がそうでない回答者の割合を上回っている(指数は101.8から103.9に上昇)。

 今年3月の中小企業金融円滑化法の失効を考えれば、これはある意味で予想に反する結果だ。
 2009年12月に施行された同法は、中小企業が返済期間延長や利息軽減といった形で返済負担の軽減を要請した場合に、可能な限り貸付条件変更の努力を行うよう金融機関に求める法律だ。
 小企業だけでなく、同法の恩恵を受けた中堅企業も少なからず存在することが想像できる。

 今回調査を実施したのは、同法の失効が目前に迫る時期だったが、新たなマクロ経済政策により資金調達環境の改善を期待するムードが広まったのも確かだ。
 日本では超低金利が長年続いているものの、実質金利はデフレによる高止まりの状態にある。

 しかし2013年に入り、日本銀行がさらなる量的金融緩和政策やデフレ対策強化の姿勢を打ち出したことで、市場の期待感は急速に高まっている。
 今後の資金調達環境について、中堅企業がより楽観的な見方を示しているのはこのためだ。

【製造業は今後の見通しに悲観的】

 調査参加企業で全体の24%と最も多くの割合を占めた製造業は、2011~12年にかけて最も大きな業績低迷を経験したグループだ。2013年の見通しについても、最も悲観的な見方を示している。

 2010年に98だった製造業の平均年間売上高指数は、2011年には96、昨年は93と継続的に下落している。

 2013年の見通しに関しては98.6とやや上向きの傾向も見られるが、依然として収益低下を予想する回答者が半数を上回っている。製造業は2013年の指数が100を下回った唯一の業種だった(表2.8参照)。



 これは、ある意味で予測可能な結果だといえるかもしれない。
 過去3年間、日本の製造業は様々な困難に直面してきた。
 特に円高が続いたことで、輸出競争力は大きく削がれる結果となっている。

 また製造業の中堅企業は、他業種と比較しても海外市場への依存度が高い。
 海外市場で収益を上げる中堅企業は全体の42%であるのに対し、製造業では59%に上っている。
 また今回の調査では、収益全体の10%以上を海外市場で上げている中堅製造業が全体の37%に上る一方で、中堅企業全体ではその割合が26%にとどまった。

 しかし、直接輸出による収益の落ち込みは理由の1つにすぎない。
 日本の中堅製造業の多くは、(例えば自動車産業など)多くのセクターで大企業のサプライヤーとして機能している。
 円高や中国など一部主要市場での反日感情の高まりを背景に、大企業の輸出が近年落ち込んだことで、中堅企業が大きなあおりを受けた可能性は高い。

 しかし海外市場で収益を上げる企業の半数以上が、輸出環境に関して楽観的な見通しを示していることは好材料だ。
 製造業では依然として100を割り込んでいるものの、海外収益に関する2013年の指数は全体で102.4とプラス値になっている。

【最も良好な業績を上げ、
今後の見通しに楽観的なのはヘルスケアセクター】

 製造業とは対照的に、国内中堅企業の中で最も楽観的な見通しを示したのは、ヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー業界だ。
 同セクターに属する企業の総収益指数は、過去3年連続でプラスとなっており、2013年も収益の伸びを予想する回答者が半数以上を占めた。

 今年の指数は107と金融サービスや建設・不動産業界と並んで最も高い値だが、2012年・2011年の指数(109・112)に比べると若干見劣りする。
 しかし、楽観的な見方を示した回答者が半数を大きく上回っている点は変わらない。

 こうした楽観ムードは、基本的に国内経済の状況を反映するものだ。
 急速に進む人口の高齢化やイノベーション・投資促進に向けた政府の施策を背景に、同セクターは最も有望な成長分野の1つとなっている。
 このことは、自社製品・サービスに対する需要の伸びを期待する中堅企業の多さからも明らかだ。
 製造業の指数が99だったのに対し、同セクターでは108となっている。

 またヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー分野では、2012年の厳しい状況と比べ今年の競争環境が改善するという見方を示した回答者が最も多かった。

 雇用水準の分野では、同業界とその他業界の差が特にはっきりと現れている。
 ヘルスケア・セクターでは、過去3年間の指数が連続して108を上回っているのに対し、他のセクターが記録した最高数値は104にとどまった(表2.9参照)。



 2013年に有能な人材の新規採用に力を入れると答えた同セクターの回答者は約60%で、全体平均の47%をはるかに上回っている。

 また、
 「当社は自社でキャリアを全うする若い人材の育成に真剣に取り組んでいる」
という記述に同意した回答者も、同セクターでは約52%に上っている(全体平均は41%)。

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■オンコセラピー・サイエンス:独自の道を切り拓くために■

 オンコセラピー・サイエンスは、東京大学医科学研究所から派生した創薬ベンチャー企業で、ヒトゲノム解析をベースに副作用の少ないガン治療薬の開発を専門に行っている。
 2011~12年度に約63億円の売上を予想する同社は、2003年に東証マザーズへ上場。
 自ら治験は行わず、自社が開発するガン治療新薬の製造・販売権を製薬会社に供与するというモデルに基づいてビジネスを展開している。
 これまでのところ、ライセンス供与の対象は日本企業に限られているが、海外の製薬企業とも現在交渉を行っている。

 同社が本社を構えるのは、神奈川県を含む官民の共同出資によって設立され、主に創業まもないベンチャー企業の拠点となっている「かながわサイエンスパーク」(川崎市)だ。
 同社の代表取締役社長をつとめる角田卓也氏によると、中堅企業が対象となる金融支援策も存在する。
 しかし、あまりに数多くの義務や制限事項があるため、実際にこうした支援策を活用することはきわめて難しいという。

 「例えば政府や自治体から支給された助成金は、3月の年度末までに全て使い切らなければならない。
 もし助成金から利益が上がれば、速やかに返納する必要がある。
 我々が必要としているのは、研究活動に再投資できるような資金だ」
と角田氏は語る。

 他の中堅企業やベンチャー企業と同じく、オンコセラピー・サイエンスも有能な人材の確保という課題に直面している。
 しかし日本最高の学術機関の1つである東京大学と共同研究を行っているため、同学の人材を比較的雇用しやすい環境にある。
 角田氏によると、バイオテクノロジー企業ではテストで高い点数を獲得する能力よりも、既成概念にとらわれない発想力が重要になることが多いという。

 同氏は、パイプラインと成長力強化に向けたM&Aを視野に入れている。
 しかし「大企業」になることには関心がなく、今後も革新的治療薬の開発企業という立場でビジネスを行う意向だ。
 同氏によると、日本のバイオベンチャーが直面する問題の1つは、大企業へと成長を遂げたロールモデル(手本)となるような企業が存在しないことだ。
 「我々は政府の手を借りずに、他企業の手本となるような企業を目指したい」
と同氏は語る。
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【建設・不動産セクターも今後の見通しに楽観的】

 今後の見通しに楽観的なもう1つのセクターは、2013年の総収益予測で2番目に高い指数107.7を記録した建設・不動産業界だ(1位はヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー業界)。
 また同セクターに属する中堅企業は、業界を取り巻く2013年の環境についても指数106と、ヘルスケアセクターを上回る最も楽観的な見通しを示している。

 しかし復興需要の後押しにもかかわらず、過去3年間の市場環境に関して「悪化した」と考える回答者は「改善した」と考える回答者を大幅に上回った。

 同セクターで見られる楽観ムードの背景の1つとして考えられるのは、自民党の政権復帰という短期的な要因だ。
 建設・不動産業界は、歴史的に見ても自民党と密接なつながりを持っており、先の総選挙で同党が大勝したことがセンチメントを改善させた可能性は高い。
 1月に政府が発表した10.3兆円規模の緊急経済対策では、予算のかなりの部分がインフラ整備や建設などの公共事業に充てられている。

 こうした背景を考えれば、建設・不動産業界が今年の雇用拡大に積極的なのは当然のことかもしれない。
 雇用水準に関する同業界の指数(104)は、ヘルスケアセクターに次いで2番目に高い値となっている。

【金融・専門的サービス業界は海外収益の持続的な伸びを予測】

 今回の調査結果によると、海外市場で収益を上げる中堅企業は、全体として今年の輸出収益の見通しに楽観的だ(最近の円安傾向が理由の1つであることは間違いない)。

 最も楽観的な見通しを持っているのは、調査対象企業のうち35%が海外で収益を上げる金融・専門的サービス業界だ。

 非常に好業績だった昨年の数字には見劣りするものの、2013年の指数は107で、海外収益の拡大を予想する回答者が半数を大幅に上回っている(表2.10参照)。



 同業界は過去数年、(例えば製造や小売など)他業界の輸出企業よりも優れた業績を上げているようだ。
 その理由の1つとして考えられるのは、日本の大企業が積極的にM&Aを行ったことだ。

 2012年初頭からEIUがアンケート調査を開始した12月中旬にかけて、日本企業は489社の海外企業を買収している(1990年の463件を上回る記録)。
 M&Aアドバイザリー企業レコフのデータによると、買収総額は6.89兆円(約80億米ドル)と過去3番目に多い。
 それぞれの案件には金融・専門的サービス企業が関与するため、海外案件の支援能力を持つ中堅企業が恩恵を受けた可能性は高い。

【小規模中堅企業のセンチメントは比較的低調】

 近年の業績や今後の見通しに関する小規模中堅企業(年間売上高10億~100億円)のセンチメントは、より規模の大きな中堅企業と比べて低調だった。
 この結果は、日銀短観をはじめとする景況調査と同様の傾向を示している。

 またEIUの調査結果では、大規模中堅企業(500億~1000億円)による2012年の指数が、中規模中堅企業(100億~500億円)を下回った。
 しかし大規模企業は2013年の見通しにより楽観的で、総収益に関する指数(109)は小規模・中規模企業(約102)を上回っている。

【新興企業の見通しはより楽観的】

 創業10年以内の新興中堅企業とそれ以上の歴史を持つ中堅企業を比較すると、前者は今年の見通しについてはるかに楽観的で、2012年の業績も大幅に上回っている(表2.11~2.14参照)。



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■ライフネット生命:成熟市場がもたらす機会■

 2008年に創業したライフネット生命は、日本に戦後初めて誕生した独立系生命保険会社だ。
 日本の生命保険市場では、世帯加入率が約90%に達しており、膨大なリソースを持つ老舗大企業が圧倒的なシェアを誇っている。
 一見すると、新規参入企業に有利な条件が整っているとはいいがたい環境だ。

 しかしネット専業の生命保険会社である同社は、革新的なビジネス戦略をつうじて急速な成長を実現している(2012年12月31日現在の保有契約に基づく年換算保険料は約63億円)。

 同社の共同創業者で現在代表取締役社長をつとめる出口治明氏によると、日本経済が低迷する中で「低廉な価格の保険商品に対する需要は(特に若者世代で)大きい」という。
 このニッチ市場を開拓するため、同社はインターネットを主な販売チャンネルとし、保険価格を大幅に引き下げるとともに、ネット利用率の高い若者世代をメインターゲットに据えた。
 出口氏によると、同業界の既存大企業は「急速な経済成長と人口増加を背景に、膨大な販売ネットワークをつうじて高価な商品を販売するという20世紀のビジネスモデルに未だに依存している面がある」という。

 世帯加入率90%と飽和状態にある生保市場の現状にも関わらず、同社は先行きに楽観的な見通しを持っている。
 出口氏によると、
 「当社の契約件数は約17万件で、顧客数にすると約10万人だ。
 しかし、今年の新成人が約120万人いることを考えれば、ごくわずかな値に過ぎない」
という。
 「当社にとって、日本の生保市場はブルーオーシャンだ」
と同氏は語る。
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 新興企業の楽観ムードは、国内・海外収益、所属業界全体の動向、自社製品・サービスへの需要といった分野でも明らかだ。
 また規制・競争環境や、(歴史の長い企業が優位だと考えられる)資金調達環境などの外的要因についても、新興企業ではより楽観的なセンチメントが見られた。

 しかし新興中堅企業の楽観ムードについては、いくつかの点に留意する必要がある。
 その1つは、こうした調査の結果が、比較的小さなデータセットの傾向に基づいていることだ。
 調査対象企業に占める新興企業の割合は、7.3%と少数にとどまっている。
 また新興企業・産業では収益の増減幅がより大きいため、楽観的な見通しが現実を反映しているとは限らない。

 (大企業になるのではなく)中堅企業としての規模を維持する企業で、急速な成長を遂げる見込みが低く、非常に楽観的な見通しを持つ経営者の数も少ないのはある意味自然なことだ。
 しかし創業50年以上の企業は、2013年を通じた日本経済全体の先行きに最も明るい見通しを持つ傾向が見られた。

 この結果は、自民党の政権復帰に対する楽観ムードを反映しているのかもしれない。
 戦後の自民党政権下で創業した中堅企業の経営者にとっては、同党の返り咲きが期待感を抱く要因になっているのかもしれない。

【地方の中堅企業にはより悲観的な傾向が見られるものの東北企業のセンチメントは改善の兆し】

 日本銀行による最新の地域経済報告[さくらレポート]によると、北海道は地方の中で唯一、景気低迷から脱却の兆しを見せている。
 しかし同地域を拠点とする中堅企業のセンチメントは楽観的とは言いがたい。
 北海道と九州・沖縄は、今回の調査で2013年の収益予測指数が100を下回った(つまり悲観的な見方が優勢な)唯一の地域だった。

 一方、東北地方を拠点とする中堅企業の景況感には、好転の兆しが見られるようだ。
 東日本大震災の被災地であるという明白な理由もあり、東北企業のセンチメントは楽観的とはほど遠い状態で、2012年の収益・雇用水準指数では最も低い数値を記録している。

 しかし企業のムードは最悪の状態から好転しつつある。
 同地方の中堅企業は、2012年の国内収益指数で最高の値を記録し(107.4)、総収益の分野でも2番目に高い指数(106.1)を示した。
 また、2013年の資金調達環境についても110.8と非常に楽観的な傾向が見られ、2番目に高い関西地方の指数(104.8)をはるかに上回っている。

(第3章は明日へ続く)

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■PDFのダウンロードについて■
本報告書は以下よりPDFでダウンロードできます:
●日本の中堅企業~その競争力と成長の条件
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JB Press  2013.07.24(水)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38264

成長へ向けたチャレンジ
英EIU報告書(3)~日本の中堅企業 その競争力と成長の条件



JB Press 2013.07.25(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38274

海外展開が中堅企業にもたらす課題
英EIU報告書(4)~日本の中堅企業 その競争力と成長の条件



JB Press 2013.07.26(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38275

優良中堅企業の成功の秘訣
英EIU報告書(5)~日本の中堅企業 その競争力と成長の条件




【気になる-Ⅴ】


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2013年7月19日金曜日

何故、ネパールなんだろう:留学生の激増

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●17日、財団法人日本語教育振興協会が発表した資料によると、中国人留学生が減少し、ベトナム人・ネパール人留学生が増加している。資料写真。


レコードチャイナ 配信日時:2013年7月19日 9時42分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=74478&type=0

中国人留学生が減少、ベトナム人・ネパール人留学生は激増―日本

 2013年7月17日、華字紙・日本新華僑報によると、日本の財団法人日本語教育振興協会は2013年4月入学の留学生のビザ発給状況などに関する調査結果を発表した。

 注目すべきはベトナムとネパールの留学生が大きく増加していることで、
 2012年度のベトナム人留学生は907人だったが、2013年度には5倍以上に増え、4725人となった。
 ネパール人留学生は487人から1457人と約3倍に増加している。

 東日本大震災と領土紛争の影響から、中韓の留学生は2010年から減少傾向にあり、留学生全体の数も減少していた。
 このため、各教育機関は東南アジアの留学生募集に力を入れ始めている。

 地域別に見ると、2012年4月入学の九州地方の留学ビザ発給件数は972件だったが、2013年には1702件と倍増した。
 出身国の内訳は、中国が428人、ベトナムが660人、ネパールが449人となっており、これまで中国の留学生が主だったのが大きく変化している。

 これまで、日本の教育機関で学ぶ留学生は中国人が多数を占めていたため、指導方法も中国の学生に配慮したものだった。
 今後はベトナムやネパールなど非漢字圏の国の留学生がますます増えることが予想され、漢字の指導方法を確立することが急務となっている。


 ベトナム学生が増えるというのはわかる。
 でもなぜネパールなんだろう。
 よくわからないのだが。
 でも理由はあるはずだ。



【気になる-Ⅴ】


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2013年7月13日土曜日

「肥満率が高い国」ランキング発表:アメリカが1位の座を明け渡す

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ロケットニュース24 2013/07/13
http://rocketnews24.com/2013/07/13/349774/

「肥満率が高い国」ランキング発表 
/ アメリカが1位の座を明け渡す

 「肥満率が高い国」というと、皆さんはどの国を思い浮かべるだろうか? 
 その答えが国連の報告で明らかになったと海外ニュースが報じている。

 国連によると、世界でもっとも肥満率が高い国はメキシコだという。
 これまでトップの座にいたアメリカから、その地位を譲り受けたことになる。
 メキシコの成人の約70パーセントが太りすぎであり、
 うち約33パーセントは肥満とのことだ。

 世界保健機関 WHO の定義によると、BMI値が25以上ならば太りすぎ、30以上になると肥満とされている。
  
●・食生活の変化が影響
 体重に問題をかかえているメキシコ人は、1989年にはわずか10パーセント未満であった。
 しかし2011年には、国連の食糧農業機関がメキシコ国民の体重増加が緊急レベルに達したことを発表。
 そのまま肥満の流行を食い止めることはできなかったようだ。

 今回の調査からは、メキシコ人が以前より多くの加工食品を食べていることに対し、穀物と野菜を以前より少なく食べていることが示された。
 その背景には、炭酸飲料とファストフード・レストランの普及があるという。
 
●・深刻な子どもの肥満
 肥満問題が深刻化しているのは成人だけではない。
 メキシコの子どもの肥満は10年で3倍に増えた。
 専門家によると、太りすぎの子どもたちのうち5人に4人は、そのまま残りの人生を過ごすという。
 彼らの多くは、粗末な食生活のせいで栄養失調になるそうだ。
 
なお、肥満率が高い国のランキング20は以下のとおりである。
 
【肥満率の高い国トップ20】

1位:メキシコ(32.8パーセント)
2位:アメリカ合衆国(31.8パーセント)
3位:シリア(31.6パーセント)
4位:ベネズエラ、リビア(30.8パーセント)
5位:トリニダード・トバゴ(30.0パーセント)

6位:ヴァヌアトゥ(29.8パーセント)
7位:イラク、アルゼンチン(29.4パーセント)
8位:トルコ(29.3パーセント)
9位:チリ(29.1パーセント)
10位:チェコ共和国(28.7パーセント)

11位:レバノン(28.2パーセント)
12位:ニュージーランド、スロベニア(27.0パーセント)
13位:エルサルバドル(26.9パーセント)
14位:マルタ(26.6パーセント)
15位:パナマ、アンティグア(25.8パーセント)

16位:イスラエル(25.5パーセント)
17位:オーストラリア、セントヴィンセント(25.1パーセント)
18位:ドミニカ(25.0パーセント)
19位:英国、ロシア(24.9パーセント)
20位:ハンガリー(24.8パーセント)
 
 1998年から2025年の間で、肥満に関係した糖尿病患者の数は2倍に増え3億人になるとされている。
 ほかにも、太りすぎによる健康トラブルは枚挙にいとまがない。
 美味しく楽しく健康的な食事を心がけたいものである。
 
参照元:MailOnline、WHO(英文)
Photo:RocketNews24

2013年7月12日金曜日

宇宙ゴミからISSを数百回も回避:管制官の責務とは

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●ISSとアメリカンフットボールのフィールドを比較した図。 Image: NASA


WIRED 2013.7.10 WED
http://wired.jp/2013/07/10/how-nasa-steers-the-international-space-station-around-space-junk/

EXT BY LEE HUTCHINSON
TRANSLATION BY WATARU NAKAMURA

宇宙ゴミからISSを数百回も回避:管制官の責務とは

 地球上空約400kmの軌道を周回する国際宇宙ステーション(ISS)は、人類史上もっとも多額の費用をかけた複雑なエンジニリングプロジェクトの産物だ。
 この宇宙ステーションの重量は約400トン
 全長はアメリカンフットボールのフィールドよりも少し長く、
 その組み立てにはロシアや米国による多数のロケット打ち上げ(これにはスペースシャトルによる37回の飛行も含まれる)や、
 155回もの宇宙遊泳を要した(これ以前に宇宙遊泳した総回数の2.5倍にあたる)。

 完成までに13年の歳月と1,500億ドルものコストがかかったISSは、高価な不動産と呼ぶにしても桁外れのものだろう。
 7月4日、米国各地で独立記念日が祝われていた日にも、はるか上空ではISSの6人の乗組員たちが働いていた。
 しかし、ISSは宇宙空間で単に静止しているわけではない。
 この宇宙ステーションは、
 大気の抵抗によって毎年2kmほど高度が下がっており
 高度維持のために定期的に上昇させる必要がある。
 さらにISSは巨大ながらも機動性があり、回転したり、傾けたり、偏揺れさせることでスペースデブリ(宇宙ゴミ)との衝突を回避することができる。

 宇宙空間では、軌道を周回する無人衛星を動かすプロセスでさえ複雑だ。
 しかしISSは無人衛星ではなく、そのサイズは無人衛星よりはるかに大きい上に、6人の人間を乗せている。
 流星物質や宇宙ゴミが押し寄せる宇宙空間で、400トンもの壊れやすい宇宙ステーションをどのように動かしているのか、その答えを知るために、われわれはNASAのジョンソン宇宙センターに足を運んだ。

 われわれが話を聞いたのは、ISSの飛行管制官であるジョシュ・パリス。
 パリス氏は「Trajectory Operations Officer(軌道オペレーション責任者:TOPO)」という役職に就いており、ISSのフライトコントロールルーム(ミッションコントロールセンターという名でも知られている)の制御装置を担当している。
 有人宇宙飛行が始まって以来、ISSの飛行管制官には常に高いスキルが求められてきた。
 パリス氏とその同僚たちも、数年にわたる特殊なトレーニングを受け、この制御装置の前に座る資格を得ている。

 完成までに13年の歳月と1,500億ドルものコストがかかったISSは、高価な不動産と呼ぶにしても桁外れのものだろう。
 その軌道上にはかなりの数の宇宙ゴミが周回しており、この数年だけでも数百回もの衝突の可能性があったという。

 「TOPOは、ISSや惑星探査車の位置や針路の把握、障害物との衝突回避などを担当しています」
とパリス氏は話す。
 ISSの軌道がある高度400km付近には、それほど多くの衛星は運用されていない。
 しかし、この軌道上にはかなりの数の宇宙ゴミが周回しており、この数年だけでも数百回もの衝突の可能性があったという。
 こういった警告は地上のレーダー施設から出されており、2013年もすでに67回の警告が出たという。

 パリス氏によれば、宇宙ゴミの主な原因には、中国の弾道ミサイルによる人工衛星の破壊実験や、ロシアの通信衛星コスモスと米国の通信衛星イリジウムの衝突事故などが挙げられるという。
 これらの宇宙ゴミは、高度を下げてISSの軌道上に入ってきているほか、ISSより高い軌道上を周回している宇宙ゴミもまだまだ多く、これらも徐々に高度を下げているという。

 宇宙ゴミは、ヴァンデンバーグ空軍基地における米戦略軍(USSTRATCOM)によって監視が行なわれている。
 同基地にはあらゆる宇宙ゴミのカタログがあり、一日に三度、ISSの軌道とカタログの宇宙ゴミの位置をスクリーン上で確認しているという。
 そしてISSに宇宙ゴミが接近したとき、NASAへの通知が行われるというわけだ。

※一方、宇宙ゴミとの衝突による損傷から宇宙船を守るための研究手法が、防弾繊維の技術開発でも応用されているという日本語版記事もある。

※この翻訳は抄訳です。


●ジョンソン宇宙センター、ビルディング30の2階にあるISSのフライトコントロールルーム。 Photo: Lee Hutchinson




【気になる-Ⅴ】


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2013年7月2日火曜日

アジア市場に迫り来る危機:商品相場や鉱業株の急落はほんの手始め?

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JB Press 2013.07.01(月)  Financial Times:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38120

アジア市場に迫り来る危機
試される投資家の「信念」、1997年当時とは違う?

(2013年6月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 証券会社は今、アジアの新興国が1997年当時よりはるかに健全な状態にあり、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和政策の打ち切りに耐えられるということを示す図表をせっせと印刷している。
 1997年というのは、7月2日のタイバーツ切り下げによって、アジアの金融危機が本格的に始まった年だ。

 彼らのお気に入りの図表は、16年前に無力だった国々が、今は短期債務の2倍の外貨準備を持っていることを示している。

■アジア危機当時より外貨準備は増えたけれど・・・

 いざという時の蓄えがこれだけ潤沢にあるため、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国、タイといった国々は(そして恐らく不運なインドでさえ)、かつてほど脆弱ではない。
 少なくとも表面的には、そうだ。
 だが、この地域は本当にそれほど幸運なのだろうか?

 予想されるFRBの金融引き締めと中国の成長減速が組み合わさった結果、重圧の兆候が既に表面化し始めている。
 アジアの通貨と、この地域の債券・株式市場はともに下落しており、結果として金融状況がタイトになっている。

 市場の下落に伴い、家計、企業、政府にとって資本コストが上昇し、過去数年間の投資の質が試されている。

 アジア地域の金融大手として事業範囲を広げているシンガポールの銀行、DBSでは、リスクマネジャーたちが、現地通貨が少なくとも10%下落することを前提に、借り手がこうしたより厳しい状況に耐えられるかどうか調べるために融資残高のストレステストを行っている。

 アナリストの中には、その前提が楽観的すぎると考える者もいる。SLJマクロのスティーブン・ジェン氏は、新興国への資本流入が逆転しているため、多くの通貨は少なくとも15%下落すると想定している。

 中国の成長減速は、中国自身にとっては良いことかもしれないが、中国の需要、特にコモディティー(商品)に対する需要から恩恵を受けてきた近隣諸国の経済にとっては有害であることが判明するだろう。

 最も大きな打撃を被るセクターの1つが鉱業。つまり、オーストラリアやインドネシアの大手石炭会社や製鉄会社だ。

 「ここでは誰もが鉱山を持ちたいと思っている」。国際的に事業展開するアジアの大手プライベートエクイティ投資会社のトップはこう言う。「まるで中国の『大躍進』のように、すべての裏庭に鉱山を持とうとした」

 だが、そうした願望は、中国が年10%の成長を示していた時に生まれたものだ。恐らく中国はもう2度と、そんなペースでは成長しないだろう。
苦悩の兆候が見えるオーストラリア、「中国暴落リスクに対する保険」

 通貨の下落が特に劇的なオーストラリアでは、最初の苦悩の兆候が既に現れている。前回の金融危機で特に大きな利益を上げたファラロンは既に、オーストラリアの鉱業会社ホワイトヘイブンへの救済資金の提供に乗り出している。

 オーストラリアの政府高官らは、経済のバランスが以前より良くなり、製造業は景気減速から恩恵を受けると話しているが、オーストラリアは人口が少なく、労働力も高価であるため、こうした主張は希望的観測だ。

 一方、多くのヘッジファンドは、中国について楽観的であるためか、あるいは中国について悲観的で、オーストラリアを中国本土の見通し悪化の犠牲者と見なしているために、ヘッジとしてオーストラリアでショートポジションを取っている。

 「これは中国の暴落リスクに対する保険だ」とシンガポールのあるヘッジファンドは指摘する。実際、オーストラリアは外国資本への依存を減らしてきたが、現在の状況では十分とは言えない。オーストラリアについて言えることは、インドネシアのような他の国々についても言える。

 この地域が1997年のトラウマから教訓を学んだと考えるのは、素晴らしいことだ。例えば、韓国は(同国では当時の悪夢がいまだに「IMF危機」として語られる)、資本収支が大幅な黒字になっており、外貨準備も増えた。それでも、外国人は、韓国の株式市場と国債市場から資金を引き揚げている。

 資金引き揚げは、外国人投資家が、円の対ウォン相場を押し下げる日本の取り組みと、韓国にとって最大の市場である中国の減速の双方から打撃を受ける韓国に神経を尖らせているからなのだろうか? それとも、韓国が東南アジアの他の市場よりもはるかに流動的であるため、外国人がアジアへの投資を減らしたいと思った時に、韓国市場は手を引くのが一番簡単だからなのだろうか?

 そして、どちらにしても悪影響が同じであることを考えると、その理由はどれほど重要なのか?

今回は前回とは違うし、アジアにとって状況はましだという自信が生まれる1つの理由は、この地域のドルの借り入れが少ないという確信だ。

 だが、そうした自信は正当化されないかもしれない。ここ数カ月間、FRBが低利資金という万能薬の供給を減らすことを公然と考慮すると予想していた人はほとんどいなかったし、ドルが上昇すると予想していた人はさらに少なかった。
再び増え始めたドルの借り入れ

 銀行関係者や投資家によると、インドネシアやインドのような国では、一部のグループ、特に民間企業が利払い負担を抑えるためにドルを借り始め、こうしたドルのエクスポージャーをわざわざヘッジしていないという。もちろん、前回の危機で非常に多くの企業を災難に巻き込んだのは、そうしたドルの借り入れだった。

 この事実は、事態が今後悪化する可能性があることを示唆している。隠れたレバレッジ(借り入れ)の厄介な点は、いつまでも隠れたままではないことだ。

By Henny Sender
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JB Press 2013.06.28(金)  Financial Times:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38109

コモディティー・スーパーサイクルの死
商品相場や鉱業株の急落はほんの手始め?


(2013年6月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
BHPビリトン、従業員6000人削減へ

この1週間の出来事から、コモディティー業界に不安の波紋が広がった(写真はオーストラリアの鉄鉱石採掘現場)〔AFPBB News〕

コモディティー(商品)の「スーパーサイクル」は死んだ。中国の急成長を原動力に価格が果てしなく上昇する時代が終わったかどうか、まだ疑問に思っている人がいたとしたら、この1週間の出来事が間違いなく疑いを払拭したはずだ。

 米連邦準備理事会(FRB)が「量的緩和」プログラムの縮小をほのめかした後の米ドル高騰と、中国での流動性逼迫への懸念が相まって、コモディティー業界に不安の波紋が広がった。

 では、投資家はどうすべきなのか? その答えは、見た目ほど明白ではないかもしれない。大半のコモディティーの価格は既に劇的に下げている。2011年に高値をつけてから、銅価格は35%下げ、鉄鉱石の価格は40%、金の価格は36%下落した。
鉱業株の空売りはもう遅い?

 クレディ・スイスのコモディティー販売部門を率いるカマル・ナクビ氏は言う。

 「投資家は大抵、原材料需要の減退を見込んだポジションを取ってきた。だが、今はその取引の終わりに近づいている。ここから先、確信を持って金属を売りに回るかどうかについては、顧客は、人々が織り込んできたよりも需要が弱いか、供給が多いか、あるいはその両方だという裏づけを待っている」

 コモディティー生産者の株価は、相場以上に激しい圧力にさらされてきた。アングロ・アメリカンの株価は2011年の高値から64%下落し、ヴァーレは45%、カザフミスは85%下げた。

 ジェフリーズの金属・鉱業専門家、ジェイク・グリーンバーグ氏が言うように、「もし誰かが今の段階でスーパーサイクルの終焉というテーマに基づき投資を行っているのだとすれば、鉱業株の空売りパーティーには少し遅い」ということになる。

 コモディティーの弱気筋としては、どうすべきなのか? 一部のトレーダーとヘッジファンドは今、コモディティーのスーパーサイクルの終焉から利益を得るために、少々難解なチャンスを模索している。

 コモディティーに特化した香港のヘッジファンド、HFZキャピタル・マネジメントのポートフォリオマネジャー、スコット・ホバート氏は、コモディティーブームで儲けてきた産業や経済の中には、まだ金属価格や鉱業株で起きた急落を免れてきたところがあると言う。

 なおかつ、スーパーサイクルの終焉は一部の産業に対し、鉱業企業以上に激しい影響を及ぼす可能性が高い。鉱業会社の利益が落ち込むにつれ、新たな鉱山に対する投資は恐らくもっと早いペースで落ち込む。実際、この1年というもの、鉱業セクターの経営者の発言の多くは、もっぱら設備投資の削減に関するものだった。

 オーストラリアの資源・エネルギ-経済局(BREE)は最近、同国内では過去1年間で1500億豪ドル(1390億米ドル)相当の資源開発プロジェクトが中止ないし延期されたとの試算をまとめた。シティグループは、鉱業分野の世界の設備投資は2015年までに昨年より30%減ると予想している。
鉱業大手の投資削減でサービス会社にダブルパンチ

 こうした投資の減少は、パワーショベルやドリルビットのメーカーからオーストラリアの奥地で仮設住宅を提供する会社に至るまで、鉱業企業にサービスを提供することを生業とする企業にとって悪い前兆だ。

 「鉱業企業は最初にサイクル逆転の痛みを感じたが、我々の見るところ、それはインパクトの第一ラウンドに過ぎない」とホバート氏。「ほかのセクターと経済への波及効果はかなり激しいものになる」

 実際、鉱業サービス業界はちょうど、最初の大きな犠牲者を出したところだ。シドニーに上場しており、鉱業セクターに部品と専門労働者を提供するオールマイン・グループが6月21日に破産申請したのだ。同社株は年初から75%下落していた。

 だが、ホバート氏は、ほかの鉱業サービス企業はまだ過大評価されていると考えている。鉱業企業による支出の削減は、鉱業サービス企業に2通りの打撃を与える。これらの企業の受注を減らすが、各社が提供する装置やサービスの値下げも強いることになるからだ。

 シティグループの金属・鉱業調査部門を率いるヒース・ジャンセン氏は「サービス企業については、業況悪化の2つの側面が見られた。仕事の量が減った一方で、価格決定力が低下しつつある。市場では今、入札競争が激しくなり始めている」と言う。

 鉱業サービス業界大手のアトラスコプコは今年第1四半期の受注が2011年同期比で15%減少したと述べた。同業大手のサンドビックは、受注が18%減少したと話している。また、シティグループが調査を行った鉱業企業の81%は、今年、サプライヤーと価格を再交渉するつもりだと答えている。

 「私の見るところ、この先3~4年はコモディティーの価格設定が下がる時期に入り、その結果、鉱業サービス業界への依存が急激に下がるだろう」。HFZのホバート氏はこう述べ、「これは鉱業サービス業界が大きな潜在生産能力を抱えている時に起きているため、明らかに非合理な価格設定と利幅の激減のリスクがある」と指摘する。

 ホバート氏は、米国に上場しているオイル・ステーツ・インターナショナルを引き合いに出す。同社の本業は、石油・鉱業プロジェクトの労働者に仮設住宅を提供することだ。苦境に喘ぐクイーンズランドの石炭鉱業で大きな事業を手がけているにもかかわらず、同社株は今年28%上昇してきた。
雇用喪失などの社会的影響は始まったばかり

 だが、コモディティーブーム終焉の影響は、地域・国全体に劇的なインパクトを与える可能性がある。4月半ば以降、豪ドルは既に12%下落し、南アフリカの通貨ランドは14.5%下げている。

 しかし、支出削減の社会的影響はまだ始まったばかりかもしれない。アングロ・アメリカンの最高経営責任者(CEO)、マーク・カティファニ氏は26日、豪州鉱業協会(MCA)で行ったスピーチで次のように述べた。

 「過去12カ月間だけで、ニューサウスウェールズとクイーンズランドで9000人近くの鉱業労働者の雇用が失われた。現在のメディア報道からすると、この数字は今後、急激に大きくなりそうだ」

 マッコーリーのコモディティー調査部門を率いるコリン・ハミルトン氏は「パースの不動産でデフォルト(債務不履行)が生じ始めるだろう」と話している。

By Jack Farchy and Javier Blas
© The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. Please do not cut and
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【気になる-Ⅴ】


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