2014年1月27日月曜日

ある日突然降って湧いたカンボジアで「ロボコン」!?=その2 (6)~(10)

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Robocon Trailer ITC Final



JB Press 2014.01.14(火)  金廣 純子
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39640

引き算の日本人、足し算のカンボジア人
開催日に向けた準備の順番に目が点
カンボジアでロボコン!?(6)

年明け早々、カンボジア情報省の大臣判断で、タイのテレビ局MCOTよりカンボジアで初の大学対抗ロボコン(以下ロボコン)の開催に関し全面的な指導をしてくれる、という申し出を受け入れることになった。

つまり、カンボジア政府としての判断ということである。
私の思いつきで動いてみたら、なんだかスゴイことになってしまったような気がする。
しかし、肝心なのはここから先なのである。

■ロボコン開催日決定。いの一番に“殿様”が差し出したものは?

情報大臣によって開催日も決定した。
2014年3月29日(土)だ。

常に「ケツ(テレビ業界用語でゴールのこと)」に向かって、何をどう作業していくかを考えてきたのが、私のようなテレビプロデューサーの仕事だ。

だから、こうしてゴールが決まると、何をいつまでにやらなければならないか、スタッフをどう組織していくか、そして何より今回の場合はどうやっていつまでに大会開催と番組制作のためのお金を集めるか、ということを考えてしまうのである。
「時間ないよなあ・・・」と思っていたら、カンボジア国営テレビ局の副局長、“松平の殿様”は1枚の紙を私に差し出した。

「これね、ジュンコさんにどうしても見せたかったのです。
これ、カンボジア・ロボコンのロゴデザイン。
私が作りました」

ああ、ロゴデザインね。
確かにそれは大事ですね。
しかも、殿様自らデザインしたそれは、びっくりするほど精巧にデッサンされていて、
「へえ、殿様ってこういうデザインの才能があったんだ」
と思わせる出来だった。

まずは、殿様が「参加感」を持ってくれたことはとても大事なことなのである。
まあ、これも一歩前進と言えるのである。

「ああ、いいですねえ、殿様。
このデザイン、グラフィックに起こしてロゴにしましょう」
と私は言って、
「で、殿様、3月29日だから、スケジュールをどうするか考えないと」
と言いかけた。
すると、殿様はこう言うのである。

「ジュンコさん、それと大事なことなんですが、賞品はどうしますか?」
え? 賞品?

正直言って、賞品のことなんか、最後に運営資金が余ったら考えようと思っていた。
もちろん賞品も大事だけれど、直前になって何とかする類のことで、それよりスケジュール管理や、スタッフ組織のことや、お金のことの方が遥かに大事だと私は考えていたからだ。

■次から次へと繰り出される提案

それなのに、殿様はこう続けた。
「ええとね、ジュンコさん、英語でなんていうのか分からないけど、優勝した人に渡すものがあるでしょう?」
と言って、何と絵を書き始める。
優勝トロフィーである。
「これは優勝した人に渡すよね」

はい、と私。
どうだっていいのに・・・。

「で、この真中のところに、プレートとか付けるでしょ。
ここに、第1回カンボジア・ロボコン優勝とか文言入れなくちゃいけないよね?」

ああ、そうね、と私。
本当にそんなこと後だっていいのに・・・。

「あの、このプレートに書く文言を刻むのは時間がかかるからね、今から考えとかないと間に合わなくなっちゃうから、早く考えよう」

分かりました。
どうでもいいけど、間に合わないなら早く考えよう。
で、次は?

「それと、参加してくれた学生の参加賞ね」
と殿様。
どこまでも「賞品」にこだわるのである。
そもそも、参加賞なんてお金が余ったら出そうと思っていたので、
「Tシャツかなんかでいいんじゃないの?」
と思いつきで答えた。

すると、殿様は真剣な表情で、
「Tシャツなんかダメですよ。カンボジアで大事なのはね、サーティフィケート(認定証)です」
と言って、自分のデスクの周りに数枚飾ってある、額に入った政府の認定印入りの認定証を指さした。
「ああいうの、全員に出しましょう」
荷物もどんどん「足して」いく。

分かりました。
おっしゃるとおりにいたします。
でも、それより大事なことが・・・。

すると、またまた殿様はこう続けた。
「ジュンコさん、競技会場となるスタジオには、大きいスクリーンモニターを入れたいんだけど」
「え! 殿様、それいくら掛かるの?」
「分からない。たぶん、1000ドル以上かな?」
あのね、と私は殿様に言う。
ロボコンを中継する番組を作るためのお金はこれからスポンサー周りをして集めるってこと、殿様だって分かってるでしょう? 
だから、大きいスクリーンモニターを使うかどうかは、集まった金額で考えましょう、と。
お金が集まらなかったら、局にある薄型テレビのモニターを集めて並べればいいじゃない。

しかし、
「小さいのは見栄えがしないからなあ」
と不服そうな殿様。

■カンボジア流は、番組構成もあくまで「足し算」

以前から気がついていたことなのだが、カンボジア人と日本人では物事を考える順番が違うようなのである。
日本人は、まず予算にしてもスケジュールにしても全体の枠を設定する。
そこから、「引き算」と「割り算」をして物事を進めていく。

そうして、やらなければいけないことと、できること、できないことの優先順位を決めて、最低限のエネルギーで「ケツ」に到達するように進行してゆくのが普通である。

ところが、カンボジア人は、最初からいきなり「足し算」と「掛け算」なのである。
「あれもやりたい」「これもやらなくちゃ」と、優先順位をあまり決めずに思いついたままばらばらと足したり、掛けたりしていく。

事が差し迫っていても、ずっと増やし続けていくのである。
だからやってみて、「ああ、できませんでした」というようなことが直前になって露呈しても、なんとなく「えいや!」と力技でやってしまったり、いきなりドラスティックに根本から方針を変えてしまって、「ケツあわせ」をして事を済ませる。
それがカンボジアのやり方のようなのだ。

以前、生放送のニュース番組を殿様と一緒に立ち上げた時もそうだった。
殿様率いる国営テレビ局チームは、番組の総尺(CMなどを除いた純粋な放送時間。
ちなみに、カンボジアの国営放送局はCMが入る)の時間を出さず、構成台本に目安となるタイミングを全く入れずに前日までリハーサルを繰り返した。

横で見ていた私は気が気ではない。
とにかく、総尺が何分で、各コーナーに何分時間を割り当てることができるのか、その目安を「引き算」と「割り算」で出してからでないと番組など作れない、というのが日本のテレビの常識だったからだ。
それで、本番放送の前日になって、私はガマンできずに殿様にそう提案したのである。
すると、殿様は驚くべきことにこう言い放った。
「ジュンコさん、カンボジアではそういうやり方はしません。
まず、それぞれのコーナーを何分ぐらいにしたいか考えます」

ふむふむ。
「そして、それを全部足し算します」
はいはい、足し算してみました。予想通り、総尺より10分以上短いのである。
すると、今度は、殿様はその足りない分をまたいろいろなコーナーにちょっとずつ足していったのである。
放送日前日に及んで、まだ「足し算」のカンボジアなのである。
最初から総尺を出して、コーナー数で割り算して、そこからコーナーの尺調整をしていけばいいじゃないかと日本人の私など思ってしまうのであるが、どうしてもカンボジア人はそうは思わないようなのだ。

というわけで、どうもこれから殿様と私の「足し算」「引き算」バトルが始まりそうな感じである。

間に合うかどうかの瀬戸際でこれをやられると、典型的日本人の私などかなり神経的に参ってしまうのだが、とにかくカンボジア・ロボコンの主役はカンボジアの人々ですから、ね。

しかし、間に合うのか? 「足し算」で・・・。



JB Press 2014.01.20(月)  金廣 純子
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39684

どうすれば成功体験のないカンボジア人を動かせる?
ニワトリが先か、タマゴが先か?
いや、親子丼だ!

カンボジアでロボコン!?(7)

カンボジアで初の大学対抗ロボットコンテスト(以下、ロボコン)まで、あと2カ月ちょっとだ。
開催が情報省によって正式に決まったのはいいのだけれど、本当に2カ月ちょっとで大会ができるのか? 
やってみせるけど、ホンネはちょっと不安なのである。

■大会をどう組織するか、十人十色のアドバイスに混乱

なぜならば、ロボコンをやるために大会を組織するというのがどういうことなのか、私も含めて本当のところは誰も経験したことがない。
しかも、ここはカンボジアだ。
そこで、カンボジアに長く住んでいる日本人や企業の方々に、当初いろいろ意見を伺った。
皆さん口々に、「カンボジアでロボコン、素晴らしいですね」と言う。
絶対企業もお金を出してくれて、良いイベントになりますよ、とエールをいただく。

でも、そこから先がみんなばらばらなのである。
ある人は、カンボジア政府のどこかの省を動かしてそこから体制を整えてからやるのがいい、と言う。
ある人は、まず企業、カンボジア人社会、学校、そして日本人社会でスクラムを組む形の体制を作った方がいいと言う。
また、ある人は大きな援助団体と組んではどうか、と言う。
別の人は日本企業をがっちり掴まえてそこから組織を作れ、と言う。
いずれにしても、何につけても時間がかかるこの国で、組織を作るだけでも軽く半年や1年はかかりそうなのである。


●ロボットを製作する学生たち(写真提供:筆者、以下同)

というわけで、カンボジアはいつも混乱気味だが、今回は、我々アシストする側の日本人だって大混乱だ。
聞けば聞くほど、どうすればいいのか分からなくなる。

勿論、JICAに所属する自分の任期のこともある。
私のカンボジアでの任期は今年の6月までだ。

一緒にやっている德田さんは3月。
大会開催日まではいられない。
平松さんは一番遅いが、それでも来年の3月までだ。
だから、自分たちの任期中に開催したいという思いは当然ある。

しかし、最も私が気になっていたのは、ほとんどのカンボジア人にとってロボコンは「未知のもの」であるということだ。
見たこともないものを作り上げるために、お金を出したり、労力を掛けたりして、組織を作り上げることができるだろうか。
しかも、長いレンジで「技術力やチームワークを育てる」というのがビジョンのロボコンだが、1年でエンジニアが育つ学校を作りますとか、企業誘致が確実にできます、と言った類の話とは違うのだ。

■将来に対する予測や想像を可能にするもの

ロボコンとはなにか? 
といえば、学生たちがロボットを作り、そのロボットを競わせる。
それは見ていて、とても楽しいですよ。
楽しみながらロボットや技術に対する興味も広がるし、毎年開催することで、参加する人たちの技術力も上がっていきますよ。
そうすると、将来的にカンボジアの「モノづくり」を担う人材が育っていくかもしれませんよ、ということだ。
こんなに気の長い話、見たこともないのに組織しろって方が無理なんじゃないの?
というのが私の正直な感想だった。

だったら、やはりどんな規模でもいいから、まずは目の前でやってみせて、「楽しい」ということだけでも実感してもらった方がいいのではないか。
未知のもののために組織を作るなど、ちょっとこのカンボジアの人たちには難しいのではないか、というのが私の1年半の滞在での彼らに対する実感だったからだ。

 ここから先は、全くの私見である。

彼らと接してきて思うのは、 
 カンボジアの人には、「経験」や「実践」が伴った「成功体験」の実感が欠けている、
ということだ。
それは、この国の悲劇的な歴史と関係があるのかもしれないし、圧倒的な貧困から来ているのかもしれないし、その両方かもしれない。
それは個人もそうなのだが、もっと言えば社会全体としての
 「成功体験の実感」を積み上げてきていないし、伝承されているものもほとんどない。
この、積み上げや伝承がないというのはどういうことかというと、個人も社会全体としても、将来に対する予測や想像ができにくい、ということだと私は思う。

つまり、経験がないのだから想像ができない。
伝承が分断されているから予測がたちにくい、ということであるような気がするのだ。
だから、千の言葉を並べて、
「ロボコンは面白いし、カンボジアの将来にも役に立ちそうですよ」
と説明したところで、それに似た類の成功体験や伝承がほとんどないんだから、実感しろ、と言う方が無理なのだ。
ということは、やっぱりロボコンをやってみせちゃおう。
目の前でやってみせて、「ほら、面白いでしょ?」と言うのが一番の早道だ。
そして、大会を作り上げながら、組織も作り、ロボコンがどういうものなのかも知ってもらう。
つまり、タマゴが先か、ニワトリが先かじゃなくて、タマゴもニワトリも一緒に食べちゃう親子丼方式である。

■広報しながら内容を考える

そういうわけで、走りながら柔軟に考えるというのを今回のやり方にした。
例えば、大会組織については当初と今ではずいぶん変わっている。
最初は、漠然と国営テレビ局主催でやると考えていたのだが、どうもそれではいろいろなことに矛盾が生じてくるような気がしてきたからだ。
そこで、大会自体は参加大学が自立的に運営をする組織を作って、自分たちで継続的に大会を開催していけるような形式を取ることにした。
こういう教育的な趣旨に賛同してくれる人々や企業からの寄付を募り、そのお金を元にして大会を開こうというものだ。
そして、我が国営テレビ局はその大会を収録して放送する。
そのための原資はテレビなんだから広告料で賄う(この国の国営テレビ局ではCMが流れる)。
番組に広告を出したいという企業から広告料の対価として制作に充てる資金をいただく。
当然テレビはメディアなのだから、できるかぎり事前取材もして、事あるごとに大会の広報をしていこう、ということになった。

そうなのだ。
まだ出来上がっていないのに、そしてどういう規模のものになるかホントは誰も分かっていないのに、広報しなくちゃいけないのである。
広報には、ずいぶんこちらの日系企業の方たちにお世話になっている。
日本語情報誌「プノン」や、日本人がカンボジア人向けにクメール語で刊行している情報誌「NyoNyum Khmer」(NyoNyum Web参照)などにも、記事として書いていただいた。
それを見て、スポンサーになりたい、寄付をしたいという問い合わせを頂戴したこともある。

さらに、カンボジア・ロボコンは毎年継続的にやるんだからオフィシャルウェブサイトを作ろうということで、これは既に昨年の10月からオープンしている。
日本人のデザイナーと、その仲間のJCグループの人たちが制作し、日々更新してくださっている。
しかし、「広報したい情報があってこそ」の広報なのである。
当初は「ロボコンやります」以外ほとんど何も決まっていなかったので、掲載する情報がない。


「開催日はいつですか?」

「開催場所はどうします?」

「参加大学は? 参加チーム数は?」

「ロボコンの競技内容やルールは?」

「寄付金の問い合わせは誰にすればいいんですか?」

「参加チームの応募締め切りはいつですか?」

などなど、矢継ぎ早にいろいろなところから質問が来て、そのたびに、
「ああ、そうか、これもやらなくちゃ。あれも決めなくちゃ」
という状態で、広報のために決めたことも多々あった。
だから、やっぱりタマゴが先でもニワトリが先でもなくて、両方やりながら考えてよかったと今は思っている。

ということで、もう一度ここに今、決まっていることを広報します。

●.コンテスト開催日:2014年3月29 日(土)

●.開催場所:カンボジア国営テレビ局第1スタジオ

●.参加大学:ITC(カンボジア工科大学)、PPI(プレアコソマ工科総合専門学校)、NTTI(国立技術訓練専門学校)、NPIC(カンボジア国立工科専門学校)、他全60チーム(予定)

(注)カンボジアの工科系専門学校は短大、大学、大学院とコースが分かれている総合学校

●.コンテストルール:ライン・トレース・ロボット(盤上の白いラインの上を正確にトレースしてその速さを競うもの)

ということで、参加申し込みは既に締め切りました。

 
●ライン・トレースの競技盤。カンボジア・ロボコンではライン・トレース・ロボットで競技を行う

あ、予選の日程決めなくちゃ。
予選の内容も決めなくちゃ。
ちなみに、部品がまだ日本から届きません。
ロボコン番組の広告も募集中です。
ああ、ドキドキ・・・!



JB Press 2014.01.27(月)  金廣 純子
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39754

「カンボジアの東工大」で見た驚きの光景
ドキュメンタリー撮影に目もくれない学生たち
カンボジアでロボコン!?(8)

この原稿を書いている時点で、カンボジア初の大学対抗ロボットコンテスト(以下、ロボコン)まであと2カ月少し。
それなのに、肝心の参加学生たちがロボットを作るためのパーツがまだ届かない。
昨年末に届いている前提でもろもろの予定を組んだため、一番確実と思われた日本で購入、送付という手段を取ったのに・・・である。
こちらから取りに行くわけにもいかず、こればっかりは待つしかない。

■当初はロボコン参加を断った、誇り高き「カンボジアの東工大」

こうなったら、パーツ到着が遅くなっても、大会全体のスケジュールを変えずに、どうやって間に合わせるかを考えるしかないのだが、正直、自分でロボットな んか作ったことがないので、ロボットを作るのにどのぐらい時間がかかるのか、そしてその検証の時間をどのぐらい見ておけばいいのか、全く見当がつかないの である。
それでいながら、参加大学からは「いつパーツが届くのか?」と催促が来る。
こっちだって、いろいろな広報をする都合があるし、各大学がロボットを作っているドキュメンタリー映像を押さえて事前にロボコンの宣伝のための番組を作ろうとか、ロボコン本番のスタジオに映像を流したいと思っているから、早く学生たちに作り始めてほしい。

それで、ロボコンの専門家である平松さんにお尋ねしてみる。すると、平松さんはこう言うのである。
「待つしかないよねえ。来た時に考えようよ」
本当に、平松さんがこういう人で良かったのだ。
私と一緒に気を揉むタイプの人だったら、私なんかきっと頭がおかしくなっていただろう。
それにしても着任10カ月にして、平松さんもかなりの「カンボジア化」である。

ところが、「カンボジア化」していない参加校があったのだ。
「カンボジアの東工大」、ITC(カンボジア工科大学)である。
最初に「ロボコンやるから出場しませんか?」
と声をかけた時に、
「ロボットなんか、もううちは作ってるから出場しません」
と断られ、後になって参加を表明した、あの富士山のように誇り高いITCだ。
ITCはパーツの催促を何度もしてきたばかりか、我々がドキュメンタリーの取材を依頼したところ、
「どうぞ取材でも何でも来てください」
と二つ返事で引き受けてくれた。
相当な自信なのである。

しかし、パーツもないのに、どうやっているのだろう? 
と訝りながら、我々国営テレビ局のクルーは、ようやくロボコン参加校ドキュメンタリーのクランクインを迎えたのである。

■次から次へと繰り出される「初めての体験」


●廊下で真剣にパソコン画面を見つめているカンボジア工科大学の学生たち(写真提供:筆者、以下同)

さて、ITCの中に入る。
ITCの廊下には学生たちがいて、みんな真剣にパソコンをいじって何かを見ている。
うちのテレビ局の若いスタッフは、パソコンを見ている時には音楽を聞いているか、韓国ドラマを見ているか、ゲームをやっているか、フェイスブックをやっているかなのだが・・・ITCの学生たちは何やら真剣に難しそうな画面に見入っているのだ。
さすが、「カンボジアの東工大」なのである。
そして、我々を迎え入れてくれたのは、ロボコンの指導をしている電子工学科のケオ・リチェック先生。
我がクルーが到着するなり、「はい、これが撮影リストです」と言って紙を配ってくれた。

こんなこと初めてである。

そもそも、カンボジアの場合、約束の時間に行ってもなかなか全員が集まらない。
集まっても、そこから
「ええと、本日はこれこれこういう趣旨で、こういうお願いをしていたと思うんですが、それはどうなってますか?」
という確認から始まるのが常である。

しかも、そのリストには、
1.ロボットのボディのデザイン
2.ロボットのボディの制作風景
3.センサーのテスト
4.コーディング
・・・・・・
など、何と7つの項目が書かれていたのだ。

「あの~、これ今日全部学生たちがやってるんですか?」
と尋ねると、ケオ先生、自信の笑顔を見せて頷く。
そしてまず招き入れられたのが、センサーのテストをしている学生たちの部屋だった。
申し訳ないけれど、部屋はうちの局と変わらないぐらい雑然としていて、しかも、恐らく電気代節約のためだろう、天井の蛍光灯は3分の2ぐらいが抜かれていて薄暗い。
しかし、そこには我々カメラクルーが入っていっても、目もくれずに真剣にセンサーのテストに集中している学生たちがいた。

さらに次の部屋では、コンピューターの前にずらっと並んだ学生たち。
こちらも我々クルーには目もくれない。
真剣そのものである。
彼らはそれぞれ、ロボットのボディのデザインを担当する学生、コーディングをする学生、そしてプリント基板のデザインをする学生たちなのだという。

●モーターのテストをする学生たち

 
●撮影されていても作業に集中している

穿った見方をすれば、カンボジアの人というのは概して「外面」がいい。
こういう取材が入るという場合、いつも以上に気張って、自分たちの良いところを見せようとする。

だからこれもお膳立てされたものかも・・・と思っていたら、次に案内されたのが、こうして設計されたボディをカットしたり組み立てたりする工具室である。

工学系の工具室といえば、日本でもお馴染みの雑然とした、そして据えた汗の匂いと工具の油の臭いが混じった、あの独特の雰囲気だ。

●ボードをカットしているこの学生は我々の姿すら全く目に入っていないようだった

ところが、日本と違うのは、ここには女子大生も半分ぐらいいる。
そして、日本ではもう使われていないような古い工具を使いこなして作業が進められていた。

こちらでも、学生たちは真剣そのもの。
カメラマンが大きなカメラを担いで彼らの作業を接写しようと、私がデジカメでバシャバシャと遠慮無く写真を撮ろうと、全く視線も動かさずに真剣にボードをカットしたり、磨いたりしているのである。
れはどう考えても、彼らは先生から押し付けられて「良い子」を演じているわけではない。 自分たちの作業に本当に集中しているのである。

■学生たちの真剣さに期待がふくらむ

こんなカンボジア人がいたのだ・・・。

失礼だけどそう思った。
私が知っているのは、時間にちょっとルーズで、締め切りも守れなくて、ちょっと的が外れたことを言って周りを苦笑させるカンボジア人。

「こんなことで間に合うの?」
というようなスピードで仕事をやって、最後の数日でいきなり人がわさわさと増えて、出来はどうあれ、力技で何とか仕上げちゃうカンボジア人。

しかし、目の前にいる学生たちは全く違う。

もしかしたら・・・

こういう学生たちが参加するロボコンは、ここカンボジアで「大化け」するかもしれない。
これは、相当面白いことになるかもしれないぞ。

と、内心嬉しくなっていた私に、ケオ先生が1枚の紙を手渡した。

「これ、参加する学生の名前です。全部で15チーム」

え! もう参加学生全員まで決まってるの? 
あなたたち、ホントにカンボジア人?

そして、ケオ先生はニコニコと笑いながら、またこう私に念押ししたのだ。
「ジュンコさん、早くパーツが届かないと、学生たちがここから作業が進まないのです。
早く、一刻も早く、パーツを届けてください」

はいはい。私だって分かってるけど、私にはどうにもできないの。それにしても、カンボジア人から急かされたのは初めてだった。

ということで、これだけは神頼み。

「早く、早く神様、パーツを届けてください!」

そして、パーツは届かないが、ドキュメンタリーの番組だけは順調に制作中なのである

(番組の一部はオフィシャルウェブサイトでご覧になれます)。
http://cambodia-robocon.com/


 』


JB Press 2014.02.03(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39821

予想外の反響を呼んだロボコン予告編動画
ロボットはクメール語で何?という基本的問題も浮上
カンボジアでロボコン!?(9)


 前回も書いたが、3月29日(土)に開催予定の第1回大学対抗カンボジア・ロボットコンテスト(以下ロボコン)の参加者に配るパーツはまだ届かない。
 でも、他のもろもろの準備は、「何となく」走り出してはいる。
 スロースターターのカンボジアでも、ゆっくりとだけれど確実に物事は動きだしているのである。

 国営テレビ局の副局長、通称「松平の殿様」がデザインした大会ロゴも出来上がった。
 英語表記である「Cambodia Robocon 2014」と、カンボジアの言語であるクメール語表記のものと両方作成した。
 殿様、至極ご満悦のご様子である。

■クメール語には「ロボット」を表す言葉がない

 しかし、このロゴ制作のときに問題になったのは、「ロボット」に当たる言葉がクメール語にはないということだった。
 最初にオフィシャルウェブサイトに掲載したクメール語表記は、殿様に言わせると、「人間の形をした機械」という意味合いで、今回のライントレース型ロボットのような車状の形のものは、「イメージと違う」と言うのである。

 そもそも、クメール語というのは日本語のように漢字があるわけではないので、新しい概念のものが世の中に登場すると、それを説明するような言葉を重ねてそのものを表現する言語なのだそうだ。
 例えば、日本語では一言で済む「酢」と言う言葉は、クメール語だと「酸っぱい水」。
 説明そのままがそれを表す言葉になるのである。
 だから単語そのものが長くなってしまうのだ。

 今回のようなロボットを表現しようとすると、適当な言葉が見つからない。
 ロゴにしたり、これから長く皆にその大会の名前を浸透させるのに、
 「人間の形をしてるわけじゃないけど、自分で動いちゃう機械」
みたいな、なが~い名前になってしまうのは不都合である。


●カンボジア「ロボッ」コンのクメール語版ロゴ(画像提供:筆者)

 参加大学の指導教官も含めていろいろ討議した結果、「ロボッ」という発音をそのままクメール語表記にしようということになった。
 「ロボ」でも「ロボット」でもなく、「ロボッ」である。
 もちろん、作っている学生たちは理解できるが、一般の人にはこれを機会に「ロボッ」がどういうものか、ロボコンを通して知ってもらおう、ということにもなった。
 ということで、ロボコンは、「ロボッ」という新しいクメール語も作ってしまったわけである。

 しかしまあ、ことほど左様に「ロボコンとは何か」をカンボジア人に知らしめるのは難しい。
 言葉で説明するより映像で見せたいと常々思っていた私だが、著作権の問題やら何やらで、既存の映像を見せるわけにはいかないのである。

 だから、ロボコンに向けて作業している学生たちの映像で、ロボットが動いてでもいたら、ロボコンのことを少しでも理解してもらえるのではないかとずっと思っていた。

 早く動いているロボットを撮影したい・・・。

 しかし、前回紹介したカンボジア工科大学(ITC)の学生たちだって、パーツが届かないから、自前の数少ないパーツでいろいろテストをしているのだけなのだ。

 しかも、ロボットが自律的に動くにはプログラミングをしないといけないのだそうだ。
 そしてそのプログラミングには1カ月ほどかかるのだという。
 そんなことも知らなかった私である。

 だから、我々が撮影できたのは、まだ動かす前の段階のロボットのデザインとか、プログラミングとか、センサーのチェックとか、材料の切り出し作業とか、いわば、それぞれの「分担作業」の映像だけだったのだ。

 言ってみれば、知らない人が見たら「なんのこっちゃ?」の映像なのだ。
 ただ、とにかく学生の真剣さは本当に心打たれるものがあったのは、前回ご紹介したとおりである。

■ロボコン予告編をフェイスブックにアップしたら・・・

 だったら、「この真剣な表情の人たちは何やってるの?」という映像にして、ロボコンへの興味を引き出せないか。
 「ロボッ」は最後まで謎のままにして、なんだか分からないけどスゴそうなことがあるよというコンセプトで作ってしまえばいいではないか。
 ということで、時間がないからざっと予告編風の映像を作って、まずは簡単にアップできるロボコンのフェイスブックページにアップしてみた。

 すると・・・

 アップした途端に、かつてない勢いでアクセス数が増えていく。
 ものの30分であっという間に100アクセスまで行ってしまった。
 これまで写真をアップしようが何をしようが、数日で200アクセス程度だったものが、である。
 その後アクセス数はうなぎのぼりに増え続け、アップしてから5時間後の日付が変わるころには、なんと1000を超えてしまったのである。
 いやあ、驚いた!(そして、この原稿を書いている1月30日現在、アクセス数は2449である)

 視聴率は翌日出るものだったテレビの世界で働いてきた私にとっては、自分たちが作った番組をどのぐらいの人に見てもらえるかというのは、あくまで結果でしかなかった。
 ところが、フェイスブックなどのソーシャルメディアは、それがほぼリアルタイムでどんどん世の中に「増殖」してゆく様が目の前に数字となって表れるのである。
 遅まきながら、その力をつくづく実感したのである。
 通信インフラが整っていないここカンボジアでは、情報はほとんどフェイスブックを通して発信されていると言っても過言ではない。

特に若いカンボジア人のフェイスブックへの依存度は恐らく日本のそれ以上だろう。


●自主的に集まってロボコンに向け勉強会を開く学生たち(撮影:鈴木徹郎)

 ということで、正体不明の「ロボッ」コンがカンボジアの学生たちを動かし始めている。
 そしてそれはインターネット上だけではなくて、現実にも波及している。
 例えば、参加校。正式に学校側への参加を依頼したのは、ITC、PPI(プレアコソマ工科総合専門学校)、NTTI(国立技術訓練専門学校)、NPIC(カンボジア国立工科専門学校)の4校だったが、個人でチームを組んで参加したいという学校がさらに3校増えた。
 私立大学であるメコン大学、ノートン大学、そして、「カンボジアの東大」たる王立プノンペン大学である。
 いわば、口コミやフェイスブックで広がって、学生自身が、あるいは担当教官が興味を持って自分たちの学生を参加させたいと応募してきてくれたのである。
 これは本当に嬉しい限りである。

■番組制作資金を集めるための広告営業に四苦八苦

 大会を開催するための資金も、日系企業や個人の方から温かいご支援をいただき、順調に集まり始めている。
 また、番組を制作・放送するための資金は、大会会場への広告料と番組へのCM露出という方法で集め始めている(国営テレビ局だが、CMが流れるのだ)。

 その昔、番組でご一緒させていただいた大手広告代理店がやっていた手法を見よう見まねでやって、なんでこんなに大変なんだろう・・・と溜息をつきながら、広告営業をやってみた。
 これなら番組を作る方がはるかに楽だ。
 文句ばっかり言って、言うことを聞かなかった、あの頃の私・・・。
 反省である。
 そんな広告費も、企業の方々から趣旨にご賛同いただいて、何とか少しずつだが集まりつつある。

 そして、タイのテレビ局MCOTが2月末にまずは第1弾としてテレビ制作のための人員を派遣してくることに正式に決まった。
 私がハノイで最初に会った、あのジョッキーさん自らやって来てくれるのである。

 しかしまだまだやることは山積だ。
 審査員はどうするのだ? 
 審査の方法はどうするのだ? 
 技術的なバックアップはどうするのだ?

 いろいろあるけれど、とにかくここはカンボジアなので、あまりに早く準備しようとしても、みんな忘れてしまう。
 遅すぎると対応できない。
 だからどの時点から始めるかという頃合いの見極めも重要なのである。

 ところで一番重要なパーツはまだ届かない。
 その事情については後日また機会を設けて書くつもりだが、パーツが来なかったらどうするのか。
 そろそろ神頼みじゃなく、本気でパーツが期限までに届かなかった時のことを考え始めないと、さすがにカンボジアでも間に合わないかもしれない。
 さあ、どうしよう?



JB Press 2014.02.10(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39872

タイの政情不安がロボコン開催の新たな難敵
パーツ調達に次々起こる障害で時間との戦いに突入
カンボジアでロボコン!?(10)

 この原稿を書いている時点で、とうとう2月に入ってしまった。
 カンボジアで初めての大学対抗ロボットコンテスト(以下ロボコン)まであと2カ月を切ってしまったのだ。気持ちはかなり焦り気味である。

■想像以上に複雑だったロボコン用パーツの調達

 ロボコンは、テレビで言えばゴールデンタイムの2時間の特別番組を作るようなものだ。
 今でこそ、どこの番組もだらだらと放送時間が長くなって、3時間、4時間なんていうのはざらだけれど、私が日本でテレビ番組をやっていた頃は、2時間番組というのは制作費も桁が違っていて、局の力の入れ方もいつもとは全然違う。

 とにかく、面白くて、質も良くて、数字(視聴率)が取れるものを作るというのが大命題で、準備にも最低3~4カ月、あるいはそれ以上かけて、スタッフも精鋭を集め、番組をどう作るかについては侃々諤々と議論したものだ。

 しかし、カンボジアで2時間特番並みのものを初めて作ろうとしているのに、なんだかやっぱりのんびりしているんだよなあ。
 いいのかね?

 例えば、スタジオの美術セットをどうするか。
 日本では、とにかく職人気質の美術担当がいて、
 「そんなんじゃ間に合わないよ。早く打ち合わせしようよ」
なんて叱責を受けながら、早々に打ち合わせして準備していたのに、ここカンボジアでは誰も美術セットのことなんか気にしていない。
 いったいどうなるんだろう?


●参加校の1つ、NTTI(National Technical Training Institute)でもロボットの試作は始まっている(写真提供:筆者、以下同)

 しかし、そんなことより何より、大問題なのは参加者がロボットを作るために使うパーツが届かないことだ。

 以前も書いたが、日本のロボコンはルールが細かく規定され、そのルールに従って参加者側がロボットを製作するためのパーツを自ら集める。

 しかし、カンボジアではロボットを作るためのパーツを店で購入することすらできない。
 そんなものを取り扱っている店がないからだ。

 そこで我々は、参加予定60チーム分のパーツを大会運営側が用意して、参加費(1チーム10ドル)と引き換えに渡すことにしたのである。

 そして、いろいろと可能性を考えてみたうえで、最も安全で確実な方法として日本の仲介業者を通してパーツを注文し、日本から送付してもらうということで既に数カ月前に発注をかけていた。

 我々は1月中にはパーツが届くものと楽観視していたのだが、まだ届かない。

 どうもパーツの数があまりに多く、さまざまな製造元や卸業者が関わっていること、日本の製品は材質などが細かく分かれていて、それを確認するのに手間取っていること、さらにこれだけ多岐にわたるパーツを60組揃えるのが日本ですらかなり時間と手間がかかる、ということのようなのだ。

 数組揃えるのとはわけが違うということなのかもしれない。
 つまり、機械をまるごと1台どーんと注文するほうが遥かに楽、ということなのである。

 それに、調達担当の平松さんがカンボジアにいて発注を遠隔操作しているために、やはりコミュニケーションがうまく取れないということも遅延している理由の1つであるようなのだ。

 しかし、ロボコンの開催日は3月29日だ。
 これはカンボジアの情報大臣が決定した日程である。
 さらに、ロボコンをやるために多くの個人や企業から資金や広告費をいただいている。
 だから、どんな理由であれ、遅延させるわけにはいかない。

 参加学生たちには少なくとも大会の1カ月前にはパーツを渡さなければロボットを製作する時間がなくなってしまう。
 ということは、日本からのパーツを当てにせずに、もう次の手を打たなければいけない時期なのである。

■ロジスティクスがほとんど信用できないカンボジア

 ということで、一緒に運営をしている平松さんと德田さんと3人で集まって、パーツをどうするかについて話し合った。

 私と同じJICAシニアボランティアの平松さんと德田さんは、ロボコン参加校の1つであるプレアコソマ工科総合専門学校(PPI)で指導をしているので、PPIをはじめとする参加校に対し、ロボット作りをどう学生に教えていくかについて、各校とコンタクトを取りながら進めてくださっている。

 実は、学生に教えるために必要なパーツを数組、タイの業者にインターネットで注文するよう、お二人が学校側に指導し、各大学は現在そのパーツを使って学生たちにロボットの作り方を教えているのである。

 既にオフィシャルウェブサイトなどで紹介している映像は、そうしたパーツと、大学がもともと持っていたごく限られたパーツを組み合わせて、ロボット作りを学生たちに指導している様子なのだ。

 ということは、タイで参加者用のパーツを調達するのが、次善の策だろう。


●限られたパーツで作った試作機を嬉しそうに見つめる学生たち

 しかし、問題はその指導用のパーツを取り寄せた時にも、タイからカンボジアへのロジスティクスに相当な時間がかかっていたということだ。

 しかも、同じカンボジア国内なのに、ある大学には早々に到着し、他のところにはそれより数週間も遅れて到着した、ということもあったのだという。

 とにかく、何度も書いてきたが、カンボジアという国はすべてのインフラが立ち遅れている。
 それは郵便制度も例外ではない。

 例えば、郵便物がプノンペンの郵便局まで来ていても、そこから配達をしてくれない。
 だから荷物は郵便局にいちいち取りに行かなくてはいけない。

 それも中味を点検されて、突然
 「これは何に使うんだ?」
と詰問されて高い郵便引取料金(わざわざ受け取りに行くのに、手数料を払うのだ!)を請求されたり、ひどい時には没収されてしまうことすらある。

 だから確実にものを届けたい場合、国際的なクーリエ業者を使用することもあるのだが、この料金だってバカにならない。
 そもそもあと60組のパーツを集める費用なんて想定していなかったのだ。

 お金はどうするか?
 そして、お金の問題をクリアするとしても、どうやったら確実に手元に届くのか?

■果たしてバンコクに行けるのか・・・

 ふと、タイのテレビ局MCOTのことが頭に思い浮かんだ。MCOTのジョッキーさんたちは、2月末に2泊3日でカンボジアに第一弾のロボコン運営指導にやって来ることになっている。

 私はその限られた彼らの滞在をスムーズに行うため、彼らの来カン(来日ならぬ「来カンボジア」のこと)に先立ち、2月中旬にバンコクに行って、詳しく打ち合わせをしようと思っていたところだったのだ。

 MCOTに協力を仰ごうか・・・?

 もちろん、MCOTにパーツを手配してもらおうなどと、そんな虫のいいことを考えているのではない。
 タイにパーツを注文することは、カンボジアにいてもできるのだ。
 問題はタイからカンボジアにやって来るまでのほんの数百キロの輸送が確実ではない、ということなのである。

 ならば、まずMCOTにパーツを届けてもらうようにこちらで業者に手配して、各大学の代表者に自分たちの分のパーツをバンコクのMCOTまでバスに乗って取りに行ってもらうことにしたらどうだろう?

 ということで、平松さんと德田さんは、早速、各大学への説明と取りに行く時間を割くことが可能かどうかの打診に入っている。

 そして私は・・・、またしてもタイの政情不安の壁である。

 ご存じのようにタイでは11月からずっと反政府デモが続いている。
 だから前回MCOTとの打ち合わせのためのタイ渡航も、JICAが公務としての渡航は当面の間禁止という決定をしたために、私は私費で行ったのである。
 だから、今回も私費で行くつもりでいたのだ。

 ところが、2月2日のタイ総選挙を前にますます政情は不安定になり、とうとう私のもとに、JICAから「私費渡航も見合わせるように」という連絡が来た。
 別にデモの現場を取材するってわけじゃないんだけどなあ・・・。

 さあ、いよいよ崖っぷちである。どうする、私? どうなる、パーツ?



<続きは下記で>
【ある日突然降って湧いたカンボジアで「ロボコン」!?=その3 (11)~(??)】


※本連載の内容は筆者個人の見解に基づくもので、筆者が所属するJICAの見解ではありません。

金廣 純子 Junko Kanehiro
慶 應義塾大学文学部卒後、テレビ制作会社テレビマンユニオン参加。「世界・ふしぎ発見!」の番組スタート時から制作スタッフとして番組に関わり、その後、フ リー、数社のテレビ制作会社を経てMBS/TBS「情熱大陸」、CX/関西テレビ「SMAP☓SMAP」、NHK「NHKハイビジョン特集」、BSTBS 「超・人」など、主にドキュメンタリー番組をプロデューサーとして500本以上プロデュース。
2011年、英国国立レスター大学にて Globalization & Communicationsで修士号取得。2012年より2年間の予定でJICAシニアボランティアとしてカンボジア国営テレビ局にてテレビ番組制作ア ドバイザーとして、テレビ制作のスキルをカンボジア人スタッフに指導中。クメール語が全くわからないため、とんでもない勘違いやあり得ないコニュニケー ションギャップと格闘中…。2014年3月にカンボジア初の「ロボコン」開催を目指して東奔西走の日々。