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JB Press 2013.05.02(木) The Economist:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37708
仕事と若者:失業世代
(英エコノミスト誌 2013年4月27日号)
仕事を持たない世界の若者の数は米国の人口に匹敵するほど多い。
「若者は怠けるべきではない。彼らにとって非常にまずいことだ」。
マーガレット・サッチャーは1984年にこう述べた。
彼女は正しかった。
社会における若者の扱いで、彼らを中途半端な状態で放っておくこと以上に悪いことはそうない。
社会に出ると同時に失業手当を受け始める人は、人格形成期にスキルを会得し、自信をつける機会を逸してしまうことから、賃金が低く、その後の人生で失業期間が多い可能性が高い。
しかし今、かつてないほど多くの若者が働いていない。
経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、先進国では、2600万人に上る15~24歳の若者が職にも就かず、教育も訓練も受けていない。
失業中の若者の数は2007年以降、30%増加した。
国際労働機関(ILO)は、世界全体で7500万人の若者が仕事を探していると報告している。
世界銀行による調査は、新興国の2億6200万人の若者が経済活動に従事していないと指摘している。
統計の取り方次第では、若年失業者の数は米国の人口(3億1100万人)にほぼ匹敵するのだ。
そうした状況には、2つの要因が大きく作用している。
①.まず、西側諸国の長期的な景気低迷が労働需要を縮小させており、年配の労働者を解雇するよりも若者の採用を見合わせる方が容易なことが挙げられる。
②.2つ目は、新興国の中でも人口の伸びが急なのは、インドやエジプトなど、労働市場が機能不全に陥っている国だということだ。
その結果が、南欧から北アフリカを経て、中東、南アジアへと続く「失業の孤」、
豊かな世界の景気後退が貧しい世界の若者の反乱と交錯する場所である。
中東では既に、若年失業者の怒りが街頭で噴き出している。
スペイン、イタリア、ポルトガルでは、先進国で一般的に減少している凶悪犯罪が増加している。
これらは若年失業率が驚くほど高い国々だ。
■経済成長は雇用を生むか?
この問題を解決する最も明白な方法は、再び成長に火を付けることだ。
だが、債務に悩まされている世界では、それは口で言うほど簡単ではないし、いずれにせよ、部分的な解決策でしかない。
問題が最も深刻な国々(スペインやエジプトなど)は、経済が成長していた時でさえ高い若年失業率に苦しんでいた。
企業は景気後退期を通して、適切なスキルを持った若者が見つからないとこぼし続けた。
こうした状況は、別の2つの解決策の重要性を浮き彫りにする。
労働市場改革と教育の改善である。
この2つはお馴染みの処方箋だが、どちらも新しい活力とさらなる工夫を凝らして取り組む必要がある。
若年失業は多くの場合、労働市場が硬直化している国で最も高くなる。
カルテル化した産業、雇用にかかる高い課税、解雇に対する厳しい規制、高い最低賃金――。
これらは皆、若者を街頭に追いやる要因だ。
南アフリカ共和国はサハラ砂漠以南で特に失業率が高いが、同国の労働組合が強力で、雇用と解雇の規則が厳しいことがその一因だ。
若年失業の孤に入っている国の多くでは、最低賃金が高く、労働に重税が課せられている。
インドには労働と賃金に関わる法律が200近くもある。
このため、若年失業の問題に取り組むうえでは労働市場の規制緩和が重要になる。
だが、それだけでは不十分だ。
英国は労働市場が柔軟だが、若年失業率が高い。
もっと実績を上げている国々では、政府が苦労している人たちの職探しに積極的な役割を果たしている。
先進国で2番目に若年失業率が低いドイツでは、企業が長期失業者を採用した場合、最初の2年間は賃金の一部を政府が負担する。
北欧諸国は、若者が就職したり職業訓練を受けられるようにするための「個人別計画」を提供している。
だが、こうした政策は、新興国は言うまでもなく、何百万人もの失業者を抱える南欧で再現するにはコストがかかり過ぎる。
より手頃な方法は、経済の中で労働力を必要としている分野を改革することだ。
例えば、小企業が免許を取得したり、建設会社がプロジェクトの認可を受けたり、店舗が夜間に営業したりするのを容易にするといい。
■過剰な大卒者
OECD加盟国全体では、最初の機会に学校を辞めた人は大卒者に比べて、失業している確率が2倍高い。
だが、各国政府は大卒者の数を増やすという確立された政策をただ続ければいいと結論付けるのは賢明ではない。
英国と米国では、高い学費をかけてリベラルアーツの学位を取得した多くの人が、まともな仕事にありつけない。
北アフリカでは、大卒者は大卒者以外の2倍の確率で失業している。
重要なのは、人々が教育を受ける年数だけでなく、その中身だ。
このことは、科学と技術の学習を拡充するとともに、例えば、職業教育と技術教育の質を高めたり、企業と学校の関係を強化したりして、教育の世界と仕事の世界の隔たりを埋めることを意味する。
長い伝統のあるドイツの職業教育と徒弟制度はまさにこれをやっている。
その他の国も追随している。韓国は「マイスター」学校を開校したし、シンガポールは技術大学を後押ししている。
英国は徒弟制度の枠を広げ、技術教育の改善に努めている。
隔たりを埋めるには、企業が姿勢を改めることも必要だ。
IBMからロールス・ロイス、マクドナルド、プレミアインに至るまで多様な企業が研修プログラムを刷新しているが、従業員を引き抜かれる不安から企業は若者への投資に消極的になっている。
この問題を回避する方法はある。
例えば、何社かの企業が大学と協力して訓練講座を企画してもいいだろう。
また、技術も訓練にかかるコストを引き下げている。
コンピューターゲーム用に設計されたプログラムによって若者は仮想体験ができるようになったし、オンラインコースを使えば、徒弟が実地訓練と学問的な指導を一体化させることも可能だ。
■革命を起こすチャンス
若年失業の問題はここ数年、悪化の一途をたどってきた。
だが、ここに来てようやく、希望を抱く理由が出てきた。
各国政府は教育と労働市場のミスマッチの問題に取り組もうとしている。
企業は若者への投資に責任を持ち始めた。
技術は教育と訓練の民主化に寄与している。
世界はこの問題の規模にふさわしい教育・訓練革命を起こす大きなチャンスを手にしている。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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【気になる-Ⅴ】
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