2013年3月19日火曜日

南海トラフ巨大地震(2):第2次被害想定 数千万人級震災、浮き彫り








毎日.jp 毎日新聞 2013年03月19日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/news/20130319ddm010040004000c.html

南海トラフ巨大地震:第2次被害想定 数千万人級震災、浮き彫り

 中央防災会議の作業部会が18日に発表した南海トラフ巨大地震の第2次被害想定は、約400ページに上る膨大なものだ。
 被災する可能性のある地域の約6800万人が受ける影響を、詳細に描き出している。【池田知広、鳥井真平】



■◇週9600万食不足、入院待機15万人 物資・医療体制、見直し急務

 南海トラフ巨大地震の被災シナリオは、必要な物資の準備や救急医療対策が追いついていない実態を浮き彫りにした。
 国がこれまで練り上げてきた災害救援計画とは別に、大幅に態勢を拡充した新たな計画の策定を迫られる。

 南海トラフで発生する地震について、政府は東海地震と東南海・南海地震の二つに分けて「応急対策活動要領」を定め、それぞれ具体計画を策定。
 東海地震が起これば東海地方に対し1週間以内に、他の都道府県が備蓄している食料約2351万4000食、飲料水6万トンを輸送する計画を立てた。
 しかし、連動して起こる巨大地震では物資を送り出す地域も被災地となり、物資が十分集まらない。

 北海道と東北を除く全国の備蓄量は、自治体と家庭を合わせて食料6340万食、水133万トン。
 しかし、南海トラフ巨大地震で最大950万人の避難者が1日当たり3食、3リットルを消費すると、1週間合計で9600万食、14・7万トンもの食料と水が不足する。
 毛布も520万枚不足する。

 全国のペットボトルの水は数日で底を突く。
 阪神大震災でも水不足が生じ、住民は破損した配水管から道路上にあふれた水をくんで急場をしのいだ。南海トラフ巨大地震では、そうした深刻な水不足が広域で長期間続く恐れがある。
 買い占めも全国的に発生し、物資はさらに枯渇するとの見立てもある。

 仙台市は東日本大震災後、それまで「3日間分」と呼びかけていた備蓄の目安を「1週間分が安心」に変更した。
 同市の担当者は「3日分では不十分だと身にしみた」と説明する。

 また、東海地震の具体計画では、被災地の病院で治療できない患者を被災地外へ72時間以内に658人搬送する予定。
 しかし、今回の想定では、入院の必要があるのに被災地で対応できない患者だけで最大約15万人にも達する。
 負傷者は62万人にも上り、医薬品も不足する。

 東日本大震災では自衛隊が10万人体制で活動。
 東海地震でも警察、消防などを含めてピーク時に11万7740人を派遣する計画だ。
 南海トラフ巨大地震で建物の下敷きになるなどして救助が必要な人は最大で約30万人。
 遺体収容に加え、津波に流されて行方不明になる人も数万人に上り、しばらくは捜索活動の要員も足りない。

 政府は来年度中にも南海トラフ巨大地震に対する活動要領を策定するが、国としての具体的な対処計画を描くには難航が予想される。

■◇孤立集落多数、「高層難民」も

 今回の被害想定では、経済やインフラ、ライフライン以外にもさまざまな被害を想定している。

 中山間地域や山沿いの港では「孤立集落」が多数発生すると予想。
 想定によると、地震発生直後に最大1900の農業集落、400の漁業集落が道路網の寸断などによって孤立する。
 通信が途絶えて状況を確認できず、数日間は物資を届けられない。
 孤立する可能性のある集落は高知県の868が最多で三重、和歌山、徳島、愛媛の各県で200を超える。

 避難所には介護が必要な高齢者や障害者、妊婦ら災害時要援護者も多数集まる。
 想定では要介護認定を受けた人17万6000人、妊産婦は8万人。
 物資不足の影響を受けやすいので、支援が不可欠となる。

 この他、エレベーター内に閉じ込められるのは全国で2万3000人。
 愛知県や大阪府ではそれぞれ数千人に達する。
 建物の下敷きになった人たちを助けるために消防などの要員が割かれるため、救出までに相当の時間がかかるケースもありそうだ。
 夏季だと熱中症で死亡する人も出ることが予想される。

 想定では、具体的な数値を示さず、被害の様相を明らかにしたものもある。
 高層ビルを大きく揺らす長周期地震動もその一つ。
 マンションの上層階で揺れが増幅して死傷者が発生し、エレベーターの停止で救助が難航する他、階段を下りられない高齢者らの「高層難民」が生まれる。

 また想定は「時間差発生」についても指摘した。
 安政東海地震(1854年、マグニチュード8.4)と安政南海地震(同)が32時間を置いて起きたように、プレート間のずれが時間差で発生。
 大きな被害を受けた場所に再び強い揺れと津波が襲って2次災害が起こり、タイミングによっては国の対応力を大きく超えてしまう可能性がある。

■◇火力発電出力、3割に 水、トイレ、携帯電話にも影響

 南海トラフ巨大地震で震度6弱以上の揺れか、3メートル以上の津波が襲うとされる市町村に立地する火力発電所は105カ所。
 出力合計は国内の総最大出力の約4割に当たる約1億2000万キロワットに上り、その多くが発生直後に停止するとみられる。
 被災した発電所の復旧には時間がかかり、電気に頼る水道や通信、他のライフラインにも大きな影響が出る。

 火力発電所は液化天然ガス(LNG)や石油などタンカーで運ばれる燃料を使うため、多くは沿岸に立地。
 津波のリスクが高い。
 東日本大震災では震度5弱以上の揺れに見舞われた火力発電所が軒並み停止。
 津波で大きな被害を受けた宮城から福島沿岸にかけての5カ所は3カ月たっても止まったままで、原発停止も相まって供給力が大幅に低下した。

 災害が社会に与える影響を研究している関西大学大学院社会安全研究科の大学院生、寅屋敷(とらやしき)哲也さんによると、南海トラフ巨大地震発生直後、全国の火力発電による出力は約3割にまで落ち込む。
 猛暑で電力融通が無ければ、供給が需要を満たすまでに関西電力で半年以上、四国電力で8カ月以上かかることも考えられる。

 更に今回の想定では全国の26製油所のうち、発生直後に12製油所の精製機能が止まる。
 これによって全国の石油精製能力は5割強に落ち込む。
 製油所が再稼働を始めるまでに1週間以上かかり、電力会社へのLNG供給が不足するという悪循環に陥る。

 もっと身近な例を挙げれば水道、トイレ、携帯電話だ。
 浄水場や下水処理場、携帯電話基地局では停電後に非常用発電機が稼働するが、燃料は1日ほどで尽きる。
 医療機関では必要な措置を施せなくなる。

 また、危険物の流出を防ぐ処置も必要になる。
 浸水が予想される海南火力発電所(和歌山県海南市、出力計210万キロワット)などを抱える関西電力は、津波対策としてタンクの遮断弁の遠隔操作化を推進。
 浸水防止や被災後の早期復旧についても検討を続けている。







【気になる-Ⅴ】


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