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サーチナニュース 2013/03/18(月) 14:36
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0318&f=national_0318_029.shtml
巨大ビジネスとなったがん研究
医療産業の中でもがん治療薬の開発・製造は、今後数年で最大の収益が見込まれる分野だ。
この産業をリードするのはスイスに拠点を置く巨大製薬会社、
ロシュ(Roche)とノバルティス(Novartis)
だ。
米IMSヘルスが行った市場動向調査によると、がん関連の製品市場は2015年までに750億ドル(約7兆2000億円)に成長する見込みだ。
これは、2009年に比べ4割の増加となる。
市場関係者すべての究極の目標は、3人に1人が生涯かかるといわれるがんの治療法を見つけることだ。
しかし、治療薬の発見や開発、マーケティングなど、分野によって課題や目標、予算が異なってくる。
「非営利団体(NPO)であれ、利益追従の企業であれ、資金があればあるほどハードルを乗り越えやすくなる」
と、NPO「臨床がん研究のためのスイスグループ(SAKK)」の会長でザンクト・ガレン州立病院乳がんセンター所長のベアート・トゥルリマンさんは話す。
「企業は学術機関に比べ、30倍もの研究費をつぎ込んでいる」
50年前に初めてがん細胞を化学合成したロシュは、世界トップ三つの医薬品を販売している。
また、がん治療薬のトップ10のうち五つがロシュの製品であり、世界市場の3分の1を占める。
また、売り上げの6割が腫瘍(しゅよう)関連製品で、昨年は売り上げの19%(約8600億円)を研究開発に投資した。
「これだけの投資を毎年すれば、他の製品と比べて違いが分かる医薬品が開発できる。
幅広く使用されれば、投資した分の資金が回収でき、さらなる研究投資ができる」
と、ロシュの関連会社勤務のシュテファン・フリングスさんは語る。
■個別化医療
個別化医療(もしくはオーダーメイド医療)は、患者個人に合わせた治療法を差す。
患者の症状によって治療法を決める従来の方法とは異なる。
遺伝研究が進めば、遺伝子ががんなどの病気に与える影響の解明につながる。
抗がん剤には、細胞の成長を調整する遺伝子をターゲットにしたものがある。
■がんを狙い撃ち
放射線治療や化学療法といった従来の治療法は、市場の約4分の1を占める。
だが、患者や医師、政府や医薬品会社から望まれるのは、一人ひとりに合わせた医薬品の服用だ。
腫瘍細胞学に基づいた医薬品であれば、効果が高く、副作用も少ないと期待される。
しかし、その開発には多大な費用がかかる。
ライバル会社のノバルティスが開発した抗がん剤「グリベック(Glivec)」は、2001年に米国で承認を受け、
「まるで(がんを狙い撃ちにする)魔法の弾丸のようだ」
と米誌「タイム(Time)」で絶賛され、同誌の表紙を飾った。
しかし、最近ではその魔法もいくらか薄れてきている。
特許切れや規制強化に加え、国からの助成がなかなか見込めず、医薬品開発者を取り巻く環境は厳しい。
IMSヘルスによれば、年間セールス10億ドルを生み出す大ヒット医薬品(ブロックバスター)を開発することが、これまでになく難しくなっているという。
だが、医薬品開発を前に進める方法もある。
将来有望の研究分野で特許を申請するか、特許を買うことだ。
そうすれば、その特許を元にした革新的な医薬品が誕生する可能性があると、フリングスさんは説明する。
■どの治療法?
トゥルリマン会長率いるSAKKにとっては、魔法の弾丸を開発することではなく、市場調査をしてどの治療法が患者にとってベストなのかを見つけることが課題となっている。
同団体が臨床試験を行うための費用1200万フラン(約12億円)の7割が公的資金、残りの3割が企業からの支援金で賄われている。
SAKKのようなNPOにとって、特許権や今後の資金はそれほど問題にはならない。
しかし
「効き目があり、国からの承認済みの治療薬があまりにも高額で誰も買えないケースは、腫瘍学者にとって悪夢だ」
と、トゥルリマン会長は言う。
「価格が上昇すれば、我々は効能だけでなく、統計的にみても患者のためになっているかを確認する。
また、低用量や短期間でも効き目があるのかも調べる」
■250種類ものがん
米国のリチャード・ニクソン元大統領が1971年にがん撲滅に乗り出してから数十年が経過した今でも、効果的な治療薬がなかなか開発されず、しかも、がんという病気がこれまで考えられてきた以上に複雑だということが分かってきた。
ヒトゲノムが完全に解読されて10年が経つが、がんはまだ「逃げ回る怪物だ」と、フリングスさんは言う。
がんの種類は250種あり、その多くでまだ発症メカニズムが解明されておらず、種類によって異なるアプローチが必要だ。
がん細胞は人の体に浸透し、逃げ回り、変異を起こし、分裂し、成長し、また耐性を身につける。
こうしたがんの特徴やメカニズムは、一歩ずつ長い時間をかけて明らかにされている。
だが、がんがある特定の生物学的メカニズムに基づいているという事実が分かったことは歓迎すべきことだ。
なぜなら
「環境や生活習慣、年齢が原因となって引き起こされる複合的な病気解明に比べ、研究しやすいからだ」
と、フリングスさんは語る。
[シャンタル・ブリット、(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)](情報提供:swissinfo.ch)
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